米軍が、ヨーロッパ最大の駐留先であるドイツからの一部撤退を予定している。ドイツの西部・南部を中心にあわせて約3万5000人の米兵が駐留しているが、トランプ大統領はこのうち1万2000人を撤退させるとしている。2020年6月頃には報じられていた撤退の意向が、7月29日の記者会見で大統領およびエスパー国防長官によって取り上げられた形である。
撤退する兵士の一部は、ベルギーやイタリア、スペインなど他のNATO加盟諸国の基地に配置され、約6400人はアメリカ国内へ帰還する。加えて、冷戦期やコソボ紛争などで大きな役割をはたしてきたアメリカ欧州軍(EUCOM)の拠点を、ドイツからベルギーに移転する考えが示されている。
第二次世界大戦直後から米ソ冷戦を経て、ドイツの米軍基地は現在もNATOの重要拠点のひとつであり、現在でもアフリカや中東へのドローン作戦等にも使用されている。およそ75年もの間存在し続けている在独米軍の撤退は、軍事戦略上の影響だけにとどまらず、地域住民の基地での雇用喪失による経済的損失や、地域コミュニティでの米独間の交流の喪失などにつながることが懸念されている。
ではなぜ、トランプ大統領は米軍をドイツから撤退させようとしているのだろうか。これに対し、ドイツをはじめとするヨーロッパ諸国はどう対応するのだろうか。
ドイツへの制裁措置?
トランプ大統領の発言によれば、NATOで取り決めた国防費をドイツが全額払っていなかったことへの制裁が理由だという。
2014年にロシアがクリミア半島を併合して以降、NATOは2024年までに参加各国の防衛費をGDPの2%にまで引き上げる目標を掲げていた。だが、ドイツはこの目標に到達しておらず、トランプ大統領は長い間この停滞を批判してきた。エスパー国防長官も、「ドイツはヨーロッパで最も裕福な国だと思います。ドイツは国防費を多く支払うことができ、また支払うべきです」と主張していた。トランプ大統領はそもそもGDPの2%では満足しておらず、倍の4%にまで目標を引き上げることを提案するなど、NATO加盟国に対し強硬な姿勢を見せていた。
しかし、2019年時点で目標達成に至ったのは加盟29カ国中9カ国にとどまっており、防衛費の目標達成については、必ずしもドイツだけが批判されるべき問題ではない。実際、トランプ大統領は防衛費を増やさなければ、ドイツ以外の国々からも米軍を撤退させると発言するなど、他の加盟国にも批判的である。
だが、ドイツからの移転先として名前のあがっているイタリア(1.22%)やベルギー(0.93%)、スペイン(0.92%)のGDPあたりの防衛費を見ても、いずれもNATOの数値目標を満たしておらず、不十分な防衛支出のためにドイツを罰したいという主張は必ずしも現状に沿ったものとは言い難い。
では、ドイツからの米軍撤退は誰にとって利益となるのだろうか。