2020年8月11日、米国大統領選挙において、民主党の副大統領候補としてカマラ・ハリスが選ばれた。
自身も大統領選に出馬し、2019年7月時点では民主党候補者内で2位となり、自らの撤退後も、民主党の大統領候補に選ばれたジョー・バイデンのメモに彼女の名前などが記されていたこともあって、指名以前から有力な副大統領候補と見なされていた。
はたして彼女はどのような人物なのだろうか。また、バイデンはどのような点を評価し、彼女を選んだのだろうか。そして、これから選挙戦の舞台に立つにあたって、どのような批判を受けることが考えられるのだろうか。
2つの人種的ルーツ
1964年10月20日に生まれたカマラ・ハリスは、アジアとアフリカ、2つのルーツを持つ米国人である。母であるシャマラ・ゴパランはインドのマドラス(現在のチェンナイ)出身で、デリー大学を卒業後、UCバークレーへと進学してガン研究者となった。なお、彼女は2009年に逝去している。一方、父であるドナルド・ハリスはジャマイカ出身で、ロンドン大学を経てUCバークレーへ進学し、スタンフォード大学で経済学教授を務めていた。
2人は、UCバークレー在学中の1960年代に公民権運動へ参加したことをきっかけに結婚し、カマラと妹・マヤをもうけた。なお、2人はカマラが7歳の時に離婚している。 カマラはカリフォルニア州バークレーで育ち、幼稚園の頃には公民権運動を受けての「差別撤廃に向けたバス通学」で、乗客の95%が白人のスクールバスで通学していた。
また、ヒンドゥー教寺院と黒人バプテスト教会の両方に通い、母の故郷であるマドラスを訪ねることもあった。一方、離婚してスタンフォード大学のあるパロ・アルトに住んでいた父を訪ねた際には、黒人だからという理由で近隣の子供が遊んでくれなかったという。
12歳の時、カマラは母や妹とともにカナダのモントリオールへ移住し、高校時代までを過ごすこととなった。カナダで在籍していたケベック州の高校では、社会経済的な理由から人種の分離が起こっていたが、彼女は人種や貧富を問わず、ほとんどの同級生と仲良くしていたとされる。また、妹のマヤ・ハリスは、当時13歳だったカマラが住んでいたアパートの子どもたちを組織して、中庭で遊ぶ権利を主張するなど、活動家のようなことをしていたと語っている。
その後、ワシントンD.Cのハワード大学への進学を機に米国へ戻り、その後カリフォルニア大学のロースクールを経て、1990年から法曹界へと入っていく。
法曹界から政界へ
カリフォルニアで地区検事となったカマラは、家庭内暴力や性的虐待などに関する訴訟で実績を挙げ、その能力を示していった。1994年には失業保険や医療支援に関する州委員会のメンバーも務めていた。
2003年の選挙を経て、カマラは2004年からサンフランシスコの地方検事を務めることとなった。カリフォルニア州で最初の有色人種の地方検事となった彼女は、いくつもの改革に乗り出した。重犯罪の有罪率向上、新聞社のプリンターインクの不法投棄などをめぐる環境犯罪対策チームの設立、暴力犯罪の取締り強化、銃関連の犯罪の厳罰化など、さまざまな成果を挙げている。
特に若い初犯の犯罪者に対する学歴付与や職業訓練を軸とした更生プログラムである「Back on Track」は、再犯率の低下や犯罪者の収容コスト低下による納税者への貢献が米国司法省から認められるなど、先駆的な取り組みだった。
また、犯罪被害者・加害者には共に学校中退者や常習的な不登校者が多いことから、不登校者の親を法廷に連れてくる姿勢も辞さない対策をおこなった。
2010年、カマラはカリフォルニア州の検事総長選に出馬して当選し、2011年からカリフォルニア州初の南アジア系米国人・アフリカ系米国人の女性検事総長となり、2014年にも再選をはたした。検事総長として、彼女は不登校対策や環境犯罪などに引き続き取り組むとともに、リベンジポルノや違法売春などの性犯罪取締りや同性婚のようなLGBTQの権利平等、プライバシー保護の強化、警官のボディカメラ着用義務化のような警察当局の説明責任の厳格化など、さまざまな課題に取り組んでいった。
2016年、引退する議員が出たことを受けて、カマラはカリフォルニア州選出の上院議員選に出馬した。州の民主党やカリフォルニア州知事、オバマ大統領などの支持を受けて選挙戦を勝ち進み、2017年から上院議員となった。
カマラは上院議員として、ドナルド・トランプ大統領のムスリムに対する入国禁止措置への批判や、ロシア疑惑に関する公聴会における、ジェフ・セッションズ司法長官(当時)や連邦最高裁の判事候補だったブレット・カヴァノーへの容赦ない追及で注目を集めた。また、Facebookやケンブリッジ・アナリティカによるプライバシー侵害への批判、ヘイトクライムにおけるリンチ(私刑)に関する法案の後押し、トランプ大統領の弾劾裁判中の司法指名の停止要求など、数多くの活躍が報じられてきた。
ところで、妹であるマヤ・ハリスもカマラの政治生活に大きく関わっている。彼女は弁護士としてキャリアをスタートし、左派的とされるアメリカのテレビ局MSNBCのコメンテーターやフォード財団の民主主義、人権、司法担当副総裁なども務めた。政治に関しては、ヒラリー・クリントンの政策顧問や、カマラ陣営の選挙キャンペーンのリーダーを務めるなど、カマラの右腕のような存在である。
ここまで、カマラ・ハリスのキャリアを概観してきたが、彼女のどのような点が副大統領候補として評価されているのだろうか。
何が評価されるのか?
民主党にとって、カマラ・ハリスはオバマ政権期の政治路線の再来と評価され、オバマ自身も彼女に激励を送っている。では、彼女は具体的にどのような政治的立場をとっているのだろうか。
彼女のリベラルな政治姿勢は比較的一貫している。中絶についてはプロチョイス派であり、LGBTQの権利平等を推進し、移民を擁護し、アファーマティブ・アクションには賛成している。また、検事時代から不登校問題に取り組んできたこともあって教育にも関心が高く、学生ローンへのサポートを打ち出すなど、若者へのアピールも欠かさない。また、検事時代からの死刑反対論者で、マリファナについてはかつての医療用大麻のみを認める姿勢から徐々に解禁派へシフトしている。銃規制支持派のため、全米ライフル協会からは敵視され続けている。
一方で、カマラはリベラルで自由主義的なサンフランシスコ民主党の流れをくみながら、実は政治戦略家としてバランス感覚に長けてもいるとされる。彼女は2016年の上院議員選で州全体の選挙キャンペーンをまとめ上げ、保守的とされる州内の25郡のうち23の票を獲得するなど、リベラルだけでなく保守層にもアプローチできるのである。
とはいえ、彼女の副大統領指名の評価は、そのキャリアよりも「忠誠心、人格、選挙運動能力」といった個人的な資質や、アジア系・アフリカ系アメリカ人女性の選出という要素が大きいと民主党内のアナリストからは分析されている。加えて、カマラはバイデンと比べて20歳以上若いことから、もし選挙に勝利した場合、彼の(短いと予測されている)任期中に問題が起きた時の対応や、今後の人事においても十分にバトンをつなぐことができる。
数々の批判
カマラ・ハリスについては、数々の評価がある一方、いくつかの批判もなされている。