東欧と東南アジアにある2つの国での大規模デモが、世界的に注目を集めている。
ベラルーシでは、ルカシェンコ大統領が6選を決めた2020年8月9日の大統領選に対して、不正疑惑から選挙のやり直しを求める大規模なデモが起こっている。首都ミンスクのデモ参加者は数万人から20万人とされており、かねてより不正選挙が疑われてきたルカシェンコは就任以降最大の抗議に直面している。このデモに対して政権は強硬な姿勢をとっており、参加者のうち6700人以上が逮捕や拘留中の拷問を受け、数百人の死傷者も出ていることから、警察の暴力的な取締りが問題視されている。
タイでは、2019年の民政移管後も軍政出身のプラユット首相が政権の座にとどまることを批判し、大規模なデモが起こっている。このデモは①議会の解散、②市民への脅迫の中止、③新憲法という3つの要求のもとにおこなわれており、特に新型コロナウィルス対策の中で、VIPを隔離措置なしに入国させる特別待遇が国内の感染を招いたとして問題視されている。また、日本のアニメ『とっとこハム太郎』の主題歌を替え歌したり、ハリウッド映画『ハンガーゲーム』の敬礼を用いたりして政府デモをおこなうなど、抗議手法のユニークさでも注目を集めている。
なぜベラルーシとタイという、東欧と東南アジアの異なる地域で、ほぼ同時期にこうした大規模なデモが起こっているのだろうか。
ベラルーシ:「最後の独裁者」と国際関係
そもそも、ベラルーシはどのような国なのだろうか。ベラルーシは、旧ソ連加盟国の中では国民一人当たりのGDPがロシアやカザフスタンに次いで高く、同じく旧ソ連に属していたウクライナの2倍を誇る。また、より発展しているロシアと比べても、不平等の尺度であるジニ係数が圧倒的に低いなど、貧富格差の少ない経済発展を遂げてきた。これは統制価格や国営企業の導入といった社会主義政策の成果であり、「ベラルーシモデル」とも言われる。しかし、近年ではIT産業こそ活況を呈するものの基幹産業とは言い難く、またエネルギー面の依存先であるロシアに原油輸入をめぐって揺さぶられやすい状況が続いている。
また旧ソ連加盟国ゆえに、政治面でもロシアとの関わりは根深いものとなっている。ルカシェンコは1994年に初当選して以来、ベラルーシとロシアによる連合国家創設を主張してきた。1999年には「ベラルーシ・ロシア連合国家創設条約」に基づき、両国の統合のステップを具体的に示してきた。しかしプーチン政権以降、ロシアは事実上の吸収併合を示唆しており、ルカシェンコがこれに反発しているため、連合国家の構想は行き詰まったままとなっている。一方で、2000年のユーラシア経済共同体やその後身である2014年のユーラシア経済連合に参加するなど、ロシアを中心とする日欧米諸国との連帯を強めようともしている。
こうしたロシアとの政治・経済的関係がある中で、今回のデモに関しても、NATOの介入を理由にロシアがベラルーシに干渉する可能性が出てきている。ジョージアやキルギスタン、ウクライナといった旧ソ連に属していた国々の親露政権が打倒されてきた中で、上述の連合国家創設条約を結ぶなど、ロシアと友好的なベラルーシの体制が変化することを嫌った動きと見られている。しかし、プーチン政権によるベラルーシの実質的な吸収併合に反発してきたルカシェンコは、デモの鎮圧に向けてロシアの助力は欲しいものの、政治的な干渉を避けたいと考えており、両国の関係におけるルカシェンコの立場はますます不安定さを増している。
ベラルーシ国内におけるルカシェンコは、旧ソ連加盟国で最も長い在任期間をほこり、「最後の独裁者」とあだ名されるなど、権威主義的な弾圧で知られてきた。2020年の大統領選ではライバル候補や活動家、メディアなどを逮捕・拘束して排除し、彼の国際的に不安定な立場からか、抗議活動をロシアやEU、あるいはアメリカなどの陰謀とすらみなしている。
ベラルーシにおけるデモの背景
こうした長期的かつ強権的なルカシェンコ政権に、なぜ今人々は抗議の声をあげたのだろうか。