2020年9月18日、アメリカ合衆国最高裁判事のルース・ベイダー・ギンズバーグ判事が87歳で死去したことを受け、後任人事をめぐる共和党と民主党の激論が続いている。女性2人目の最高裁判事で、「RGB」の愛称で親しまれてきたリベラル派の彼女の後任として、トランプ大統領はアメリカ巡回控訴裁判所のエイミー・コニー・バレット判事を候補者として指名した。
これを受けて、リベラル派と保守派それぞれの団体が競って広告枠を購入するなど、最高裁人事をめぐるキャンペーンも過熱している。トランプ大統領およびその周辺関係者が新型コロナウィルス陽性となったことで、判事任命権を持つ上院では共和党の過半数が脅かされる可能性がある。このため、公聴会の行方は2020年10月5日時点では混乱しており、また世論調査でも多くの有権者が、大統領選後に最高裁判事を任命すべきとの考えを明らかにしている。
また、2019年の民主党の代表選では、副大統領候補のカマラ・ハリスを含む一部の議員が裁判官の数を増やすといった改革に言及した。
なぜ、これほどまでに最高裁判事をめぐる議論が政治的にヒートアップしているのだろうか。ここではバレット判事の人事を通じて、アメリカ合衆国最高裁判事の政治的な重要性について検討する。
バレット判事は何者なのか
はじめに、トランプ政権による候補者指名で共和党と民主党の激論の渦中に置かれた張本人である、エイミー・コニー・バレットのプロフィールおよび法曹としてのスタンスを確認する。
略歴
バレットは、共和党の支持基盤で保守的な州として知られるルイジアナ州ニューオリンズの出身で、敬虔なカトリックである。ただし、彼女が参加している超教派的な宗教運動は正式にはカトリック教会に所属しておらず、非常に保守主義的なスタンスで知られている。
2017年、トランプ大統領に第7巡回控訴裁判所判事に任命されるまでは、法律事務所で働いたのち、カトリック系の名門私立大であるノートルダム大学で長年法学の教鞭をとっていた。しかし、彼女に司法経験がないわけではなく、ロー・スクール卒業後の1997年から2年間法務書記官を務め、特に1998年からの1年間は2016年に亡くなった故アントニン・スカリア判事の下で働いていた。また、彼女は「連邦主義者協会 Federalist Society」という法曹関係者の組織に2005〜6年、2014〜7年の間所属している。この組織からは2020年10月時点の最高裁判事8名のうち5名が過去に、あるいは現在も所属しており、彼女が所属したのは最高裁判事への布石だったとも目されている。