医療崩壊の定義は定まっていないものの、新型コロナウイルスの感染拡大によって医療機関の厳しい状況が続いている。
年明けからは「病床がひっ迫する中、急病の患者の受け入れ先がなかなか決まらないケースも急増」し、「各地で病床のひっ迫状況が厳しくなってきている中、病床をどう確保するかが課題」となっている。毎日のように病院のひっ迫が報じられており、その原因を問いただす声も高まっている。
一体なぜ、日本では十分な病床が確保できていないのだろうか?
そもそも病床のひっ迫は、昨年から認識されていた問題だった。にもかかわらず、なぜ国や自治体は十分に対応していないのだろうか?世界有数の病床数を誇る日本が、現状で対応できていない要因はどこにあるのだろうか?
「97%の病床がコロナではない一般医療に使われており、余力がある」という指摘も見られるが、これは本当だろうか?また、一部で指摘され始めたように「民間病院」が戦犯なのだろうか?
世界1の病床率
日本の病床数は、世界的に見ても圧倒的に多い。「OECD Health Statistics 2020」の2019年のデータによれば、日本の病床数(下図、黄色)は1000人あたり12.8床となっており、韓国の12.4床(同、青)とともに世界トップクラスだ。フランスの5.8床、イタリアの3.2床、米国の2.8床、英国の2.5床と比べて圧倒的であり、欧州で最高レベルの医療体制と評されるドイツの7.9床よりも格段に多い。
こうした事実を踏まえると、「病床の多い日本が、コロナ禍で病床不足に直面しているのは何故か」という疑問が出てくるのは、当然の帰結だ。
実際、OECDのデータによれば日本の病床は164万1407床であり、1月20日時点に新型コロナウイルス感染者向けに確保された病床数の、2万7736床とは大幅な乖離がある。同データは2018年のものであり正確な数字ではないものの、新型コロナウイルス感染者向けに使用されているのは、全体の約1-2%程度に過ぎないことが推測される。
以上のような事実を踏まえて、前述した「97%の病床がコロナではなく、一般の医療に使われており、余力がある」という指摘が出てきている。この指摘をする東京慈恵会医科大学の大木隆生は、
民間病院が、商売として「コロナをやりたい」と思うぐらいのインセンティブをつければ、日本の医療体制は瞬く間に強化される。菅総理大臣は「久しぶりに明るい話を聞いた」と言っていた
と述べる。それほど簡単な話が事実であるならば、なぜ今まで実現されなかったのだろうか?
また池田信夫も、「小規模病院の2割しかコロナ患者を受け入れない」現状が問題だとして、その原因は「コロナが指定感染症に指定されているため、PCR検査で陽性になると無症状でも長期入院させなければならない」ことにあり、指定感染症を解除すれば良いと結論づける。
すなわち、一般医療向けの病床を新型コロナウイルスのために振り替え、同時に指定感染症を解除して、長期入院を辞めれば、問題は解決するという主張だ。
しかし結論から述べると、これらの主張は適切ではない。