EVといえば、イーロン・マスクが手掛けるTesla(テスラ)を思い浮かべる方が多いだろう。Tesla社は2020年の1年間で株価を8倍まで上昇させ、自動車メーカーとしてはトヨタを抜いて時価総額世界一位の座に躍り出た。
しかし、そのTesla社を上回る成長率を見せている企業がある。「中国版Tesla」として知られる新興EVメーカー、NIO(ニオ、上海蔚来汽車)だ。2020年1年間の株価の伸び率を見ると、Tesla社の8倍に対して、13倍という上昇率を記録した。一時はダイムラーを抜き、時価総額も世界5位の自動車メーカーとなっている。
NIOのEP9(NIO NextEV, CC BY-SA 4.0)
創業からわずか6年ほどで、EV車の量産体制を構築し、中国国内のみならず、世界でも広く知られるまでの地位を獲得したNIOは、どのような企業なのだろうか?
NIOとは
NIOは、ハイエンド向けのEVを製造・販売する電気自動車スタートアップだ。2014年11月、中国のシリアル・アントレプレナーであるウィリアム・リー(中国語名は李斌、リー・ビン)によって創業された。2018年9月にはニューヨーク証券取引所に上場し、一時は自動車メーカーの時価総額ランキングで5位につけるなど、新興企業ながらEVメーカーの中でも注目を集める存在となっている。
創業者のウィリアム・リーは、1974年生まれの46歳で、中国中東部にある安徽省の出身だ。酪農家の家庭で生まれ育ち、北京大学でコンピュータサイエンスと社会学を専攻した。
2000年に自動車情報メディアを運営する易車(ビットオート)社を創業し、2010年にはニューヨーク証券取引所に上場、2018年に退任するまでNIOと兼務するかたちでCEOを務めていた。また、Mobikeのエンジェル投資家としても知られている。
ウィリアム・リーは、2012年の時点ですでに自動車会社の設立構想を持っていたという。2014年にNIOの前身となるNextev社を創業し、2017年にNIOへと社名を変更した。NIOの中国語名である「蔚来(ウェイライ)」は、「青空到来」を意味しており、より環境に優しい未来へのコミットメントを反映しているとのことだ。
中国国内では上海、北京、安徽省合肥市に開発・製造拠点を構えるほか、グローバル展開も図っており、カリフォルニア州サンノゼ、ミュンヘン、オックスフォードにも開発拠点が置かれている。
「ユーザー中心企業」
ウィリアム・リーは頻繁に自社を「ユーザー中心企業」と形容する。これは、NIOが単に自動車を販売するだけでなく、ユーザーにとって快適で満足度の高いライフスタイルを提供することを念頭に事業を進めていることを意味する。
NIOの主要な顧客層は、中国で成長中の中産階級だ。中国富裕層向けメディア「胡潤百富(フルン・レポート)」誌によると、現在、中国には年収20万元(約3万1,000ドル)の世帯が3,300万世帯以上存在している。
このような進歩的な富裕層は、早い時期に経済的な安定を得ていたため、国際的な視野を持ち、品質に対する要求が高い。ウィリアム・リーは、ここに新興企業として挑戦すべきマーケットがあると見て、2014年の事業開始以来、「ユーザー中心」の理念を掲げて多額の投資をおこなってきた。この思想は、次のような特徴に見ることができる。