2021年3月1日、数百組にのぼる韓国のアーティストの楽曲が、Spotifyから削除された。原因は、Spotifyと韓国のレーベル/ディストリビューターであるKakao Entertainment社の対立により、両社間のライセンス契約が失効したことだ。
楽曲が削除されたアーティストの中には、GFRIENDやSEVENTEEN、IUなど、世界的な人気を誇るアイドルや歌手も含まれており、世界中のK-POPファンが騒然となった。(騒動の当日には「Spotify」と「Kakao M」(Kakao Entertainment社の当時の名称)の両方がTwitterの世界トレンドのトップ5に入っている。)
3月11日に両社は契約上の合意に至り、Spotifyから削除された楽曲は再度配信されるようになった。しかし、この楽曲のライセンスをめぐる争いは、ストリーミングサービスが抱える構造上の問題を浮き彫りにするものであり、その問題は根本的には解決していない。
なぜ両社の衝突は発生したのだろうか?そして、その背景には具体的にどのような問題があるのだろうか?
なぜ楽曲が削除されたのか
前述したとおり、SpotifyからK-POPアーティストの楽曲が削除された直接的な原因は、Kakao Entertainment社とのライセンス契約が失効したことだ。ではなぜ、両社の契約は更新されなかったのだろうか。
競合関係が影響?
この点について、業界関係者からは両社が競合関係にあることを指摘する声がある。
Kakao Entertainment社は韓国の大手IT企業Kakaoの子会社で、音楽配信やタレントマネジメントを手掛ける総合エンターテインメント会社だ。韓国最大の音楽ストリーミングプラットフォームであるMelOnの運営もおこなっていて、このサービスはSpotifyとは競合関係にある。
Spotifyは今年2月2日に韓国でサービスをローンチしており、MelOnとの直接的な競争が始まったばかりだった。また、Kakao Entertainment社は韓国版のSpotifyに自社が保有する音源を供給しておらず、Spotifyが韓国国内アーティストの音源を確保できていない状況もあった。(Kakao Entertainment社が保有する音源は、韓国の代表的な音楽チャートの一つである「ガオンミュージックチャート」の「2020年年間トップ400曲チャート」に掲載された曲の37.5%を占めている。)そして、韓国は音楽業界の市場規模が世界で6番目に大きく、魅力的なマーケットでもある。
両社はともに、今回の騒動をうけて、「グローバルライセンス契約の問題は、韓国でのサービス開始とは無関係」とする声明を出している。しかし、状況を考えると、交渉が決裂したことにこの問題が関係していないとは考えにくい。