今年4月から、欧州で天然ガスの高騰が続いている。欧州における天然ガス価格の指標となるオランダTTF価格は、12月に史上最高値となる128.3ユーロを記録し、年初来(18.1ユーロ)から約700%の高騰となった。
この高騰については、EU最大の天然ガス輸入国であるロシアからの供給が滞り、同国が追加供給に後ろ向きな姿勢を見せていることが主な原因として指摘されている。EU各国が不満を露わにする一方で、同国は「契約分は供給しており、追加供給を行う義務はない」として、対立姿勢を鮮明化させた。
なぜ天然ガスをめぐりEUとロシアで対立が起きているのだろうか?
高まるロシア依存
まず背景にあるのは、EUにおける天然ガスのロシアへの高い依存率だ。天然ガスのEU域内生産はここ10年で半減し、2019年の輸入依存率は約90%に達している。中でもロシアからの輸入割合は大きく、EUの天然ガス総輸入量のうち、ロシア産は 2020年(6,320万トン)に43.9%、2021年上半期(7.480万トン)には 46.8% を占めている。
ロシア依存が高い背景には、同国の地理的な優位性がある。天然ガスは気体状態の方が液化天然ガスよりも輸送コストが低く、欧州と地続きのロシアからは気体状態の天然ガスをパイプラインを使って輸送可能となっている。そのため、EU域内のエネルギーはロシアに大きく依存する状況だ。
パイプラインを介したEUとロシアの結びつきは1960年代からはじまり、大きく3つの段階に分けられる。
1960年〜2000年:重なった思惑
ロシア(当時ソ連)とヨーロッパ大陸を繋ぐパイプライン網の整備は、1960年代から始まった。当時のソ連は、西側世界の高い品質、技術、ハードカレンシー(国際的に交換可能な通貨)を欲していた。一方の西ドイツも、社会民主党のブラント首相の下で共産圏諸国との関係強化を図る「東方外交」が推進されており、天然ガス事業によって両者の利益が重なった。
また当時は石炭による大気汚染の影響が指摘され始めており、以前は石油生産の副産物でしかなかった天然ガスが、石炭よりも二酸化炭素排出量が少ない利点を背景として需要が高まっていた。こうした経緯から1970年2月1日、ソ連-西ドイツ間で初の天然ガス輸出契約が締結され、本格的にパイプラインの建設・輸送が始まった。
しかしながら、1980年代の米国レーガン政権は次に見る2つの懸念から、こうした欧州各国とソ連の関係緊密化を非難した。
ひとつには、エネルギー分野におけるソ連依存が政治的材料として使われる可能性があること。もうひとつは、ソ連に外資を提供することで、同国が軍事的増強を図る恐れがあることだった。こうした批判に対して欧州各国は、米国の懸念は根拠を欠いた誇張であり、パイプラインが開通してもソ連への依存は欧州エネルギー総消費量の6%に過ぎないとしていた。
だが冒頭でみたように、現在のEUの天然ガス依存率は90%、ロシアはその半数を占めている。そして結果的には、ロシアは天然ガスを実際に政治的材料として用いており、アメリカ側の懸念が的を得ていたように思われる。