11月27日、英・民衆法廷 Uyghur Tribunal (*1) は、習近平国家主席など中国政府高官たちが、新疆ウイグル自治区における人権侵害へ強く関与していることを示す文書を新たに公開した。
公開されたのは「新疆文書」と呼ばれる流出文書で、2014年から2017年における習近平国家主席の非公開演説や政府の最高機密文書などを含んでいる。Uyghur Tribunalは9月にこれを入手し、中国民族政策専門家のエイドリアン・ゼンツ氏らが分析を進めていた。
ゼンツ氏は同日に発表した報告書で「残虐行為の細部に与えた習近平国家主席の個人的な影響力は、われわれの認識をはるかに超える」としているが、具体的に同主席らの発言や指示はどのようなものだったのだろうか?
(*1)民衆法廷とは、国際法上問題があるとされる行為に対して、自主的に集まった市民やNGOが有識者らと共に開く模擬法廷のことを指す。
新疆文書とは
新疆文書は、2019年に米・The New York Times 誌(以下 NYT)が最初に入手した。流出元は中国共産党員とみられ、合計400ページを超える文書は、習近平国家主席や政府高官の演説原稿や新疆政府の公文書など11種から構成される。
NYTによる報道では、11種類の文書のうち「再教育施設」に収容された人々の家族への応対をまとめた十数ページが中心に取り上げられた。そこでは施設の職員があらかじめ用意された質問と想定解を頼りに、「過激主義のウイルスを取り除くために必要なことだ」「親が収容されている間の生活費や教育費は党や政府が負担してくれる」「希望すればビデオチャットができる」などと説明している実態が明らかにされた。
また同年には、BBCや英・The Guardian誌ら17の報道機関が参加する国際調査報道ジャーナリスト連合によって、新疆ウイグル自治区の再教育施設の運営に関する機密文書が公開されていた(「中国電報」と呼ばれている)。同文書内には、施設を刑務所として運用する指示が明記されており、「絶対に脱走を許すな」や「自白を促せ」「矯正学習を優先せよ」と人格改造を意図する運用体制が明らかとなった。
一方、Uyghur Tribunalが今回発表した文書は、NYTの報道では明らかにされなかった文書の一部とされている。具体的には、11種類の文書のうち
の3つが公開された。まだ公開されていない文書についても今後公表される予定(*3)となっている。
(*2)新疆ウイグル自治区の政策に関する会議。
(*3)NY Times・Uyghur Tribunalも公開にあたっては情報提供者を守るために、出所がわかるような記述を削除した原本の写しと英訳を公開している。
「政府や党に大切にされていると思えるように」
具体的な発言を見る前に、人権侵害が指摘される新疆ウイグル自治区の民族政策を概観しよう。
同地区への弾圧傾向が強まったのは2014年からだ。2009年からウイグル族独立派の犯行とされる爆破や襲撃事件が相次いで、習近平主席が新疆を視察した際に同地区で爆破事件が起きた2014年以降、中国政府は「テロとの人民戦争」として同地区に対する民族政策を展開しはじめた。
2016年に「職業訓練センター」と呼ばれる収容施設が建設されると、思想教育や強制労働の他、大規模な不妊手術や漢族との強制結婚、そして組織的性犯罪や拷問などが指摘・証言されている。
一連の政策に対して国際社会から人権侵害の疑惑が向けられ、2021年3月から米国・カナダ・EUは対中制裁を課して、個人や団体の渡航禁止や資金凍結の措置をとっている。一方の中国は、国際社会からの批判を「今世紀最大の嘘」として、人権侵害を否定する姿勢を見せている。
だが、公開された習近平主席ら政府高官の演説原稿を見てみると、一連の施策において人権侵害を厭わないことを示唆する発言があったことがわかる。以下ではその具体的な発言を見ていこう。なお、発言内の強調は全て筆者によるものである。