ー 2022年2月22日01時53分、記事下部を更新。
ウクライナ情勢は、ますます緊迫の度合いを増している。ウクライナ東部では17日、砲撃によって幼稚園が被害を受けるなど(写真下)攻撃がエスカレートしている。
ウクライナ政府と親ロシア武装勢力は、いずれも相手に責任があると非難の応酬を繰り返しており、一連の攻撃について米国は、ウクライナへの軍事侵攻を正当化するためのロシアによる「偽旗作戦」(自国が、他国や敵対する武装勢力などからの武力攻撃を受けたかのように偽装する作戦。開戦や相手への攻撃の口実などに用いる)だと主張している。
ウクライナでは、2014年の「ウクライナ危機」で大規模な戦争が展開された2015年以来の激しさとなる砲撃が続いており、兵士や民間人の死傷者も出ている。住宅や自動車などの被害も確認されている他、東部から避難する市民も増えている状況だ。同国では、危機がはじまってから約1万4,000人が死亡(うち約3,000人が民間人)しているが、ロシアが軍事侵攻した場合、民間人の犠牲者は5万人にのぼるという見方もある。
事態の緊迫化を受け、19日にはドイツ・ミュンヘンで G7 緊急外交会合が開催。「欧州大陸における冷戦終結以来最大の配備であり、世界の安全保障及び国際秩序への挑戦である」として、ロシアを強く非難した上で「ウクライナに対するあらゆる更なる軍事的侵略は、ロシア経済に厳しく前例のないコストを課すこととなる幅広い部門・個人を対象とした経済・金融制裁を含め甚大な結果を招くことを、明確に理解すべき」と警告が発せられた。
そもそも、なぜウクライナ情勢は悪化しているのだろうか?現時点で何が分かっており、何が懸念されるのだろうか?ポイントのみを絞って、簡潔に見ていく。
これまでの経緯は?
すでに弊誌記事「ロシアは、なぜウクライナに介入しようとしているのか?」でも伝えたように、今回のウクライナ情勢を理解するためには、北大西洋条約機構(NATO)とロシアに挟まれたウクライナの歴史を押さえる必要がある。
ソビエト連邦の一部であったウクライナは冷戦後、旧ソ連構成国との友好的な関係性を維持しつつ、西側諸国との連携を強化する「中立国」の道を選んだ。
ところが、ウクライナにおける親ロシア派であったヤヌーコヴィチ政権が、2014年のマイダン革命で倒れると、ロシアによるウクライナへの介入が強まっていく。ウクライナに属していたクリミア半島(クリミア自治共和国)はロシアによって併合され、東部のドンバス地域(ドネツィク州、ルハーンシク州)では、ウクライナからの分離独立を主張する武装勢力と政府部隊との衝突が激化した。(2014年クリミア危機・ウクライナ東部紛争)
2014年のマイダン革命(Mstyslav Chernov, CC BY-SA 3.0)
2014年と2015年には、ドンバスをめぐる2度の停戦合意も結ばれたものの、その後も協定違反となる武力衝突が繰り返され、現在まで戦争状態が続いている。
そして2019年、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー政権下で、将来的な EU(欧州連合)および NATO(北大西洋条約機構)加盟を目指す方針が明らかにされたことで、再びロシアとの関係が悪化する。
2021年、ロシア軍の増強
今回の危機をめぐるロシアの軍事動向が、最初に顕在化したのは2021年4月だ。ウクライナ国境付近に10万人もの大規模な部隊が集結して、軍事演習が繰り返された。この規模は、2014年よりも大きいと言われ、ウクライナ情勢に対する国際社会の関心が一気に高まることとなる。
前述したように、もともとウクライナ東部のドンバス地域では、ウクライナ政府軍とロシアから支援を受けた分離独立主義者の間で戦争状態が続いていた。しかし国際社会が大きく注目することはなく、昨年春のロシア軍部隊の集結によって、改めて地域への懸念が高まった形だ。
同じ年の10月から11月には、再びロシア軍が国境付近に集結していることが確認された。この時にプーチン大統領が繰り返し述べたのは、ウクライナのNATO加盟を認めないという立場であり、NATOを想定した軍事防衛網を構築する必要があるという見解だった。
現在に至るまで、プーチン大統領の頭の中がはっきりと分かる論者は存在しないが、ソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的悲劇」と呼び、ウクライナのNATO加盟(というよりも、NATOの東欧および旧ソ連構成国などへの"東方拡大")を強く批判する同大統領が、何か「現状を変えようとしている」ことは明らかだった。
12月には、米・バイデン大統領とロシア・プーチン大統領の間で電話会談が開催される。ロシア側は、ウクライナへの侵攻計画を否定して、国境沿いの部隊は軍事演習のために集まっていると主張した。一方の米国側は、ロシアが軍事侵攻に至った場合、「過去に例のない経済制裁」をおこなうとして強い姿勢を示した。
バイデン大統領とプーチン大統領の電話会談(White House, CC BY 3.0)
こうして昨年末から、ウクライナをめぐる国際的な緊張関係は一気に高まっていく。