・農作物を育てる肥料の流通の停滞や、途上国の禁輸措置なども影響を与えている。
・食料安全保障の面から、各国はサプライチェーンを分散させる他、肥料の国産化なども進めはじめた。
世界中で食料価格の高騰が止まらない。国連食糧農業機関(FAO)は4月8日、2022年3月の食品価格指数を公表した。これによると、2014年から2016年の平均食品価格を100とした時の2022年3月における指数は159.3となり、過去最高値を更新した。
もっともFAOが月ごとに発表している同指数は、以前からコロナ禍などの影響を受けて高い値で推移してきた。2020年10月に基準値である100を超え、2021年9月には130を突破している。
しかし、ここにきて過去最高値を更新するに至った要因は、2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻の影響だ。ウクライナ侵攻は、開始から2ヶ月近く経った今なお事態打開の見通しが立っていない。長引く危機は、世界の食料事情にどのような変化をもたらしているのだろうか?
ウクライナ侵攻と食料インフレ
そもそも、なぜウクライナ侵攻によって食品の価格が高騰するのか。その原因としては、世界的な穀倉地帯であるウクライナが戦禍を被っていること、肥料流通が停滞していること、途上国が食料輸出を制限していることなど、複数要因が絡み合っている。
以下、順を追って見ていこう。
ウクライナからの食料輸出の停滞
まず重要なことは、小麦やトウモロコシなどの供給大国であるウクライナからの食料輸出が停滞していることだ。同国は、歴史的にヨーロッパの穀倉地帯と呼ばれてきた。
関連記事:ウクライナ、どのような国か?知っておきたい基本データ
農林水産省の発表によると、2020年度に全世界で輸出された小麦の9.2%、同じくトウモロコシの12.2%はウクライナから供給されている。小麦とトウモロコシは世界で最も多く消費されている穀類であり、トウモロコシは家畜に与える飼料の主原料でもある。
さらに、ウクライナから輸出されている重要な農産物には、ヒマワリ油もある。ヒマワリ油は日本では馴染みが薄いかもしれないが、ヨーロッパなどでは非常にポピュラーな食用油として知られており、家庭用や加工食品向けとして広く流通している。そして、全世界のヒマワリ油の輸出総額のうち50%以上はウクライナによるものだ。
船舶による食料輸出の停滞
通常、ウクライナからの食料輸出は、オデーサをはじめとした黒海沿岸の港を通じて行われる。2020年には、ウクライナから輸出された穀類の95%以上が黒海沿岸から輸出された。しかしロシアによる侵攻開始と同時に、ウクライナ軍は商用船舶による港の利用を禁止した。さらにロシア軍も、ウクライナの黒海沿岸で海上封鎖を行なっている。
このため、ウクライナからの船舶による食料輸出は滞っている。冒頭で紹介したFAOの食品価格指数を品目別に見ると植物油の価格高騰が最も激しく、前の月に比べて23.2%も上昇している。これについてFAOは、ウクライナ産のヒマワリ油の供給停止によって、植物油の需給状況が世界的に逼迫したことを要因に挙げており、世界の農産物市場における同国の影響力の大きさを物語っている。
したがって世界的な食料インフレが収束するためには、黒海沿岸の貿易港における商用利用が早期に再開されることが何よりも重要となる。
正常化までには長い道のり
だが仮に、これらの港からの貿易が近いうちに再開されても、そう簡単に供給量が戻らないのが農産物の難しい点だ。