6月8日、スリランカ国籍のウィシュマ・サンダマリ氏が入管施設で必要な医療を提供されず死亡したことをめぐり、同女性の遺族が国に賠償を求める訴訟が始まった。
非正規滞在の外国人を収容する施設、いわゆる入管をめぐる問題は跡をたたず、2007年以降17件の死亡事故が発生。他にも職員の暴力行為や収容処分をめぐる訴訟が急増している。こうした問題は多くの批判を巻き起こし、昨年には入管のあり方を定める入管法改正案も廃案に追い込まれた。
では、そもそも入管法とはどのような法律なのだろうか?そして、なぜ入管施設では問題が発生し続けるのだろうか?入管法の役割や歴史、問題点などを全2回に分けて見ていこう。
入管法とは何か?
入管法は「出入国管理及び難民認定法」の略称で、日本に出入国する全ての人々の管理や難民認定を目的とする法令だ。具体的には、以下3つの役割がある。
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公正な出入国在留管理
日本に訪れる外国人について、その目的や滞在する資格(在留資格)や在留期間などを確認して、その入国・在留を判断する。
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外国人の退去強制
不法に入国した人や許可なく就労している人、許可された在留期間を超えて滞在している人を強制的に国外退去とする。
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難民の認定
外国人からの難民認定申請にもとづいて審査をおこなったり、人道上の配慮から在留を認めるなどの判断をする。
以下では、この3つの役割に従って入管法の関連する性質を見ていく。
1. 公正な出入国在留管理
まず1つ目は、公正な出入国在留管理だ。
在留資格
来日する全て外国人は、入管法の管理対象となる。観光客など短期滞在者はビザのみで日本に滞在できるが、日本に3ヶ月以上滞在する外国人は、在留資格を取得する必要がある。在留資格は33種類あり、大きく活動類型資格と地位等類型資格の2つに分類される。
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活動類型資格
それぞれ定められた活動によって、在留が認められる。ただし、就労できる資格とそうでない資格がある。
(例)外交・教授・芸術・報道・高度専門職・技術・人文知識・国際業務医療・研究・教育・介護・特定技能・技能実習・特定活動・留学・家族滞在など -
地位等類型資格
身分・地位によって在留が認められる。
(例)永住者・日本人の配偶者等・永住者の配偶者等・定住者(難民・日系3世など)
データで見る外国人の内訳
2021年末時点に日本で中長期にわたって滞在・居住している外国人は、276万635人いる。これを在留資格別で分けると「永住者」が83万1,157人と最も多く、次いで「特別永住者」が29万6,416人、「技能実習」が27万6,123人、「技術・人文知識・国際業務」が27万2,720人と続いている。
日本に滞在・居住する外国人数(下図)は、コロナ禍によって直近では減少しているものの、長期的に見れば増加傾向にある。2019年には過去最高となる293万3,137人を記録し、2010年の204万7,349人と比べると約100万人増加している。
出入国在留管理庁発表資料より筆者作成
非正規滞在
ただし、276万635人の外国人数には、入管法に違反して日本に入国・滞在する外国人は含まれていない。外国人が入管法違反となるケースは以下4つに分類される。
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不法入国
有効なパスポートやビザを持たずに入国すること。 -
不法上陸
上陸審査でパスポートに上陸許可の証印を受けずに上陸すること。 -
非正規滞在(不法滞在/オーバーステイ、*1)
有効なビザや在留資格の期限を超えて滞在したり、就労許可のない在留資格で就労すること(*2)。 -
刑罰法令違反
窃盗や傷害などの刑に処せられること。
2022年初頭の非正規滞在者数は6万6,759人で、所持していた在留資格別で見ると「短期滞在」が最も多い4万3,266人(64.8%)「技能実習」が7,704人( 11.5%)、「特定活動」が5,305人(7.9%)と続いている。
日本に滞在・居住する外国人と同様に、非正規滞在者も増加傾向にあり、2020年には過去最高の8万2,892人を記録した。
(*1)行政やメディアでは「不法滞在者」と表現されることが一般的だが、「不法」というレッテルは,そうした外国人がすべて「犯罪者」であるかのような印象を与えかねないとの指摘があり、本記事でもそれにならい、代わりに「非正規滞在」という表現を用いる。
(*2)入管法は「不法在留罪」を定めるが、これは不法入国して日本に滞在する外国人に課され、非正規滞在者に課される罪ではない。
2. 外国人の退去強制
もし非正規滞在が発覚した場合は、国外への退去、さらには入国禁止措置などの罰則が課されることがある。これが2つ目の、外国人の退去強制だ。
外国人の退去
国外退去では、出国命令か退去強制のいずれかの処分が下される。出国命令は、非正規滞在者のうち出国意思を持って自ら入管に出頭した人が対象で、速やかな出国と1年間の入国禁止が課される。
一方の退去強制は入管などに摘発された非正規滞在者が対象で、入管施設に収容され、退去強制令書の発布を受けたのちに強制送還される。送還後は5年間の入国禁止となる。また出国命令か退去強制に関わらず、何度も非正規滞在を繰り返す非正規滞在は10年間の入国禁止、最悪の場合は今後一切の入国を禁じる場合もある。
2021年に出国命令あるいは退去強制になった外国人は、1万8,012人で、内訳は非正規滞在が最も多い1万6,638人、次いで刑罰法令違反が574人、不法入国が182人、不法上陸が50人、その他と続く。このうち、不法就労が認められたのは1万3,255人で73.6%を占めた。強制退去で送還された外国人は4,122人だった。
入管収容と仮放免
収容対象の外国人は、全国にある入管センターや収容所に収容される。入管施設では通常、集団部屋で暮らし、数時間の自由時間や面会・電話設備などが設けられている。刑務所ではないため、受刑者に課されるような作業は存在しない。
収容された外国人は、送還に同意すると収容が解かれて出国となるが、出国に同意しない外国人もいる。その理由には、母国で迫害や差別を受ける恐れがあったり、家族が日本にいる場合、あるいは出国先の政府が受け入れを拒否するといった状況がある。
例えば、イラン国籍のベヘザード・アブドラヒ氏は、同国で多数を占めるイスラム教シーア派以外の宗教を信仰しているため、送還後に迫害される懸念を抱いている。またペルー国籍でトランスジェンダー女性のナオミ氏も、LGBTQら性的マイノリティへの差別や殺人が起きる同国に帰ることは困難だとして、出国を拒んでいる。
このような出国ができない外国人は、入管法の定めるところによって「送還可能のときまで」無期限で収容される。収容が長期化することもある一方で、就労禁止や都道府県外への移動禁止といった条件付きで収容から解放する仮放免制度も存在し、コロナ禍以降は施設内の密回避を目的として要件が緩和されている。
データを見てみると、2019年6月時点で全国入管施設に収容されている外国人は1,253人で、このうち送還を拒んでいる外国人は649人いる。また、収容が6ヶ月を超える人数は679人と半数以上にのぼる。また、2021年末に仮放免を受けている外国人は4,174人いる。
入管施設をめぐって重要なことは、収容される外国人は犯罪者として拘束されるわけではないことだ。収容は送還が実現されるまでの一時的な行政措置に過ぎない。だが、次回記事で確認するように、収容という人々の自由を奪う行為が司法審査を経ないで、行政の裁量に委ねられていることは国内外から問題視されている。
3. 難民受け入れ
日本の難民受け入れは、入管法の3つ目の役割だ。
日本で難民申請をする場合、法務省入国管理局に登録し、入国審査官による審査などを経て条約難民として認定される。認定されない場合は母国への強制送還措置がとられるが、もし審査で認定されなかったとしても、異議を申し立て再度審査を求めることが可能だ。条約難民に認定されると日本での在留資格を得ることができ、法令の範囲内で権利と公共サービスの利用が認められる。
一般的に難民の受け入れは、ノン・ルフールマン原則にしたがって実施される。同原則は、母国で迫害や差別を受けたり、紛争に巻き込まれる恐れがある外国人に対し、入国を禁止したり、それらの場所に追放・送還することを禁止する国際法の決まりだ。
原則が破られた例としては、コンゴとタンザニアが内戦中のルワンダで発生したジェノサイドから逃れるルワンダ難民に対し国境を閉鎖した行動があげられる。こうした行動は国際的非難に晒され、難民の保護が強く求められている。
ここまでの入管法の役割をまとめると、同法は人々の公正な出入国在留管理・外国人の退去強制・難民認定の3つの役割を果たしている。
入管法のあゆみ
では、入管法や入管施設はどこが批判されているのだろうか?
入管法や入管施設に対する批判は、外国人の権利保障や入管職員による人権侵害・差別など多岐にわたる。
しかし、こうした問題を見る前に、ここで一旦入管法の歴史に焦点を当てたい。その理由は、入管法が制定当初から外国人の人権や尊厳を軽視してきたことがわかるからだ。高千穂大学教授で政治学者の五野井郁夫氏が、入管の敵対的な姿勢の一因が「入管という組織の来歴に淵源している」と指摘するほか、入管にまつわる問題を取材する平野雄吾氏も、入管問題の要因として入管の変わらない体質を明らかにしている。