・グリーンウォッシュが起きる要因は、環境配慮への市場からの要望、規制の緩さ、役員報酬の決定要素としてのESG指標などが指摘される
・グリーンウォッシュへの規制は強化傾向だが、代替肉などの市場拡大でグリーンウォッシュは増える可能性も
グリーンウォッシュ、という言葉がビジネスの現場でも知られはじめた。企業などが実態とは異なっているにもかかわらず、自社製品が環境に配慮したものだとアピールすることを指す語だ。
環境問題への配慮が世界的に求められるなか、多くの企業がそれに応えようと広告やパッケージの表示で環境への配慮を謳っている。しかし2021年のEUでの調査によると、環境配慮を謳う商品広告の40%以上で、その実態が認められないグリーンウォッシュの疑いが確認された。
世界が脱炭素社会の実現に向けて舵をきるなか、グリーンウォッシュへの注目度はますます高まっていくはずだ。では具体的に、どのような行為がグリーンウォッシュとして問題視されているのか?そして、企業はなぜこうした "虚偽" の広告をしてしまうのだろうか?
グリーンウォッシュとは
グリーンウォッシュ(*1)とは、実態を伴わない環境配慮などへの取り組みを商品広告などでアピールする行為を指す。
グリーンウォッシュという言葉は、環境を意味する「グリーン」と、問題をごまかすという意味の「ホワイトウォッシュ」を組み合わせた造語だ。もともとホワイトウォッシュとは、建物の表面を白く塗装するペイントのことで、表面上の潔白を取り繕うという意味から、このような用法が生まれた。
(*1)英語圏ではグリーンウォッシング(Green Washing)という語も一般的であるが、ここではグリーンウォッシングとグリーンウォッシュは同一の意味として扱う。
言葉の起源
グリーンウォッシュという言葉の産みの親は、1980年代のアメリカ人環境保護活動家のジェイ・ウェスターヴィルト氏とされる。
ウェスターヴィルト氏は、ある宿泊先のホテルで「環境を守るためのタオル再利用」を呼びかける案内を目にした。しかしそのホテルは、他の場面では特に環境に配慮した取り組みをしていないことから、タオルの再利用を呼びかけるのは、単にタオル洗濯のコストを削減したい動機であると著書で批判した。
その際に使われたのが、グリーンウォッシュという言葉だった。
グリーンウォッシュが起きやすい業種と具体例
これまでにグリーンウォッシュとして批判された事例は幅広い業種で確認され、世界的な大企業が批判の的になることも多い。
グリーンウォッシュの問題を経営学の立場から研究するカリフォルニア大学ロサンゼルス校のマガリ・デルマス教授は、グリーンウォッシュが特に発生しやすい業種を以下のように指摘する。
環境負荷への懸念が大きい業種:自動車とエネルギー
まずは環境負荷への懸念が大きい自動車産業やエネルギー産業などだ。これらの産業は環境負荷について社会からの厳しい監視の目にさらされやすい。そして、実際に自動車やエネルギーの業界ではこれまでにも大規模なグリーンウォッシュが明らかになっている。
自動車業界における代表的なグリーンウォッシュ事例と言えるのが、2015年に発覚したドイツのフォルクスワーゲン(VW)社による排ガス不正問題だ。
同社は、クリーンディーゼルと称したディーゼル車を米国などで販売していた。しかし、排ガス試験では動かしていた排ガス低減装置を、実際の走行では稼働させないようにする不正ソフトが組み込まれていたことが米国の研究者らの告発によって発覚。これを受けて米連邦取引委員会は、「VWのディーゼル車は環境に優しい」と虚偽の内容を広告で謳ったとして同社を提訴した。
エネルギー業界では2019年にイギリスの大手石油会社・BPによるグリーンウォッシュが問題となった。
BPは2019年1月から、再生可能エネルギーについての取り組みをアピールする国際的な広告キャンペーンを開始した。
しかし、実際には同社の年間投資額の96%以上は石油やガス関連事業に投じられていた。そこで、国際NGOのクライアントアースは当該キャンペーンが消費者に誤った印象を与え、OECD(経済協力開発機構)の定める多国籍企業行動指針に違反しているとして、イギリスに設置されたOECDの連絡窓口にBPを告発。これを受けてBPは2020年2月に広告キャンペーンを終了した。
消費者の注目を集めやすい業種:大手消費財メーカーなど
大手消費財メーカーをはじめとした消費者の注目を集めやすい業種でもグリーンウォッシュが発生しやすい。有名ブランドなどのグリーンウォッシュに関する報道は世間の関心を集めやすく、活動家やNGOの監視の目にさらされやすいためだ。つい最近も、スウェーデンの大手アパレルメーカー・H&Mのグリーンウォッシュ疑惑が報じられた。