日本政府は、2023年4月にも給与のデジタル払い制度を導入するため、最終調整に入った。労働者や雇用主にとっての利便性が向上するだけでなく、世界に対して遅れをとっている日本のキャッシュレス比率を改善するチャンスとして期待が寄せられている。
一方で、運用過程での様々なエラーの可能性や、個人情報の取り扱いをめぐるリスクも指摘されており、厚生労働省は対応策の検討を急いでいる。
まもなく実現される給与のデジタル払いとは一体どのような仕組みであり、国や企業、市民にとってどのような重要性を持つのだろうか?また、どのような問題点が懸念されているのだろうか?重要な6つのポイントを解説する。
1. そもそも「給与のデジタル払い」とは?
給与のデジタル払いとは、資金移動業者(*1)が提供するスマートフォン決済アプリなどの口座に給与をデジタルマネーとして送金し、受け取り側の労働者がそのアプリを使用して買い物などで支払いが可能となる仕組みだ。銀行口座を介することなく給与が支払われる点が、これまでの仕組みと異なる部分となる。
給与のデジタル払いがこれまで実現されてこなかった理由のひとつに、労働基準法第24条によって定められた「賃金支払いの5原則」が存在する。そこでは、給与の支払いを(1)通貨で、(2)直接労働者に、(3)全額を、(4)毎月1回以上、(5)一定の期日を定めて支払わなければならないと規定されている。政府は同法の省令を改正することで、スマートフォン決済アプリなどの資金移動業者の口座も支払い対象に加える方針だ。
(*1)厚生労働省によると、資金移動業者とは資金決済に関する法律(平成21年法律第59号)に基づき、内閣総理大臣(財務局長に委任)の登録を受け、銀行やその他の金融機関以外の業者のうち、為替取引を営んでいるものを指す。2022年7月末時点で85事業者が存在する。
2. 誰が利用可能?
給与のデジタル払いは、企業に所属する従業員の他、企業と直接雇用の関係にないフリーランスなど多様な雇用形態が対象となる方針だ。これまで日本国内での銀行口座開設が難しかった外国人労働者も対象となり、利用サービスによっては海外送金なども容易になる。
3. 受け取り口座として指定できるサービスは?
給与の受け取り口座として対象となるのは、厚労省より指定を受けたスマートフォン決済アプリ口座などの資金移動業者だ。資金移動業者は政府が銀行などとは別に定義した登録制の金融サービスであり、代表的なものとして、PayPayや楽天ペイがある。
給与のデジタル払いの対象となる事業者は、次の要件などが課される方針だ。
- 破綻時などに、口座残高の全額を労働者に保証すること
- 残高の移動や引き出しなどが1円単位でできること
- 少なくとも毎月一回は、ATM利用手数料なしで引き出しができること
- 口座残高の上限額を100万円以下に設定すること
4. そもそもなぜ重要視されているのか?影響度は?
では、なぜ今、給与のデジタル払いが重要視されているのだろうか?国、企業、労働者、そして銀行の各レイヤーからその影響度を整理したい。
国・政府
日本政府が給与のデジタル払いに踏み切る背景には、主に2つの理由がある。