2020年10月菅義偉首相(当時)は、2050年までのカーボンニュートラルの達成を目標として宣言した。それ以来、企業の間でもカーボンニュートラル達成を目指す動きが広がっている。例えば、トヨタ自動車は2035年までに自社工場からのCO2排出量を実質ゼロにする目標を掲げている。
カーボンニュートラルとは、CO2排出量を“実質ゼロ”にすることを意味する。つまり、CO2排出自体をゼロにすることを意味しておらず、CO2は排出しながら何らかの形で排出量を相殺(オフセット)することを目指している。具体的には、森林を保護し光合成によるCO2吸収量を増やしたり、太陽光発電を支援したりすることによるオフセットが目指される。
このように企業がCO2排出量を相殺(カーボンオフセット)する際に用いられるのが、カーボンクレジットという仕組みだ。カーボンニュートラルへの関心が世界的に高まるなかで、カーボンクレジットにも大きな注目が集まっている。
では、カーボンクレジットとは一体どのような仕組みなのだろうか?
カーボンクレジットとは何か?
まずは、カーボンクレジットの概要を簡単に確認してみよう。
「クレジット」という言葉には様々な意味があるが、カーボンクレジットは日本語で「排出権」と訳される。つまり、CO2を排出する権利のことだ。では、その排出権はどこから生まれるのだろうか。
カーボンクレジットは植林活動や太陽光発電の推進などのCO2排出削減プロジェクトによって生まれる。植林をすれば光合成によるCO2の吸収量が増えるため、大気中のCO2は減少する。そして、このCO2削減量をクレジットとして販売するのが、カーボンクレジット制度の肝だ。
例えば、ある植林プロジェクトによって、3トンのCO2が削減されたとする。そして、そのプロジェクトは3トン分のカーボンクレジットを発行し、ある企業がそのクレジットを全量購入したとしよう。その企業は事業活動から発生するCO2排出量の削減に取り組んでいたが、どうしても年間3トンのCO2を排出してしまう。しかし、この企業は3トン分のクレジットを購入したので、3トンの排出量を相殺することが可能となる。これによって、この企業はカーボンニュートラルを達成できる。
このようにカーボンクレジットを使えば、クレジットを購入した企業は自社からのCO2排出量をクレジットの分だけ相殺できる。なお、クレジットは原則として1トン単位で発行される。
カーボンクレジットの発行量は年々増加している。世界銀行の統計によると、2021年に全世界で発行されたクレジットの総量は4億7,800万トン分で、前年比で48%増加した。また、カーボンクレジットの市場規模は14億ドル(約2,000億円)以上と推定されている。
カーボンクレジットとはどのような仕組みか?
カーボンクレジットの仕組みをもう少し詳しく見ていこう。
排出削減量の計算
まず、カーボンクレジットで必要なのは、プロジェクトでのCO2削減量を計算することだ。
カーボンクレジットでは一般的に、プロジェクトが行われなかった場合の排出量を試算し、その試算値と実際の排出量の差をプロジェクトによる排出削減量として算出する。なお、この方法はベースライン&クレジット方式と呼ばれている。
ベースライン&クレジット方式のイメージ(Ministry of Economy, Trade and Industry, CC BY 4.0)