世界最大の資産運用会社が、米国内で強烈な批判にさらされている。
1,100兆円以上を運用する資産運用会社・Black Rock(ブラックロック)に対して、米共和党を中心とする保守派が「攻撃」を強めている。批判勢力は、同社が重視するESG投資(*1)が国内のエネルギー産業に損害を与えているなどと主張し、同社の運用方針を厳しく批判。共和党が政権を握る一部の州では、年金基金などを同社から引き上げる動きが広がっている。
一方、同社はESG投資を支持するリベラル派からも強い批判を受けている。2022年9月には、民主党の影響力が強いニューヨーク市政府が、同社によるESG投資の方針に不服を申し立てる書簡を送付した。
なぜ今、Black Rock に保守・リベラルの双方から批判が集中しているのか。そして、この“事件”をきっかけに、ESG投資にどのような影響が及ぶのだろうか。
(*1)環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)への配慮を投資先の決定において考慮する投資形態。
一体何が起きているのか?批判の概要と背景
Black Rock に一体何が起きているのか。まずは、寄せられている批判の概要と背景を確認しよう。
保守派からの批判
Black Rock への批判に止まらず、共和党など保守派はESG投資自体に対しても「woke capitalism」として批判を強めている。woke capitalismとは、直訳すると「目が覚めた資本主義」となるが、その意味を正確に理解するためには、最近の米国でのwokeという言葉の使われ方を知る必要がある。
wokeとは本来「目が覚めた」という意味だが、最近の米国では環境問題や人権問題への配慮を重視するリベラル派を揶揄する表現として使われている。あえて日本語にするのであれば「意識高い」という訳語が当てはまるかもしれない。したがって、woke capitalismも「意識高い系資本主義」と訳すのが適当だろう。
こうした批判の背景にあるのは、ESG投資が経済的利益を毀損していることへの懸念だ。ESG投資では純粋な投資リターンへの期待と並んで、企業の社会的価値が重視される。そのため、ESG投資は必ずしも投資利益を最大化させるものであるとは言えず、投資利益の最大化を任務とする受託者責任への違反があると批判されている。
また、化石燃料産業からの支援を受ける共和党は、ESG投資が化石燃料業界にダメージを与えている点も強く問題視している。