⏩ 2018年、ユネスコが「反イスラエル」で偏向していると批判し脱退
⏩ ユネスコの内部事情や中国の台頭を懸念して再加入へ
⏩ パレスチナ問題の悪化を懸念する声も
2023年7月11日、米国はユネスコ(国連教育科学文化機関)に再加入した。
米国はパレスチナ問題に関するユネスコの動向をたびたび批判しており、2011年には分担金の支払いを中止していた。さらに、2018年にはユネスコの「反イスラエル的な態度」を批判し、脱退へと至っていた。しかし今回、米国は滞納していた分担金約6億ドル(約840億円)を分割返済する意向を示したうえで、再加入を果たすこととなった。
背景には、大統領の交代に伴う米国の路線変更のみならず、ユネスコの内部事情や中国による影響も示唆されている。
なぜ米国は、脱退していたユネスコに再加入したのだろうか。そして、このことは今後のイスラエルとパレスチナに関する問題にどのような影響を及ぼすのだろうか。
なぜユネスコから脱退?
2018年、当時の米政府は、ユネスコが「反イスラエル」で偏向していると批判、トランプ前大統領はユネスコからの脱退を決定した。(*1)
そもそも、米国は脱退前からユネスコの動きを度々批判してきた。たとえば、2011年にユネスコがパレスチナの正式加盟を認めた際、パレスチナは国家としての資格を持ってユネスコに加盟したが、米国はパレスチナが国家の基準を満たしていないと主張し、これを批判した。それを契機に、米国はユネスコに対する分担金の支払いを停止していた。
米国がユネスコから脱退した背景には、トランプ前大統領によるアメリカ・ファーストの方針も関連する。トランプ前大統領は、米国の国益を最優先にした軍事・外交政策を採っていた。たとえば、2019年にはアフガニスタンやシリアに駐留していた米軍の一部を引き上げるなど、各国からの撤退を進めた。また経済的・財政的な負担が大きい多国間組織をやり玉に挙げることも多く、この文脈の中で国際人権理事会やユネスコが標的になってきた。(*2)
ユネスコのイリーナ・ボコバ事務局長(当時)は、米国に対する遺憾の意を示した一方で、当時指摘されていたユネスコの「政治化」が組織に負担をかけた点を認めてもいる。すなわち、世界遺産制度がイスラエルの占領体制を批判したり、パレスチナ全域におけるユダヤ人の歴史を否定するための道具になっていた、などの指摘だ。
このような背景があった中で、なぜ、米国はユネスコへの再加入を果たしたのだろうか。
(*1)米国がイスラエルとの関係を重視する理由は大きく2つある。第一に、同盟国としてのイスラエルの立場だ。米国議会調査局の報告によると、米国は「中東における戦略的目標の一致や、イスラエルの建国後に生まれた二国間の歴史的関係」など、多くの戦略的・政治的要因に基づいて、イスラエルとの協力関係を強固なものにしてきた。第二に、米国国内での世論の影響がある。その背景には、米国の人口の約4分の1を占めるキリスト教福音派が関係している。福音派は、「ユダヤ人国家イスラエルは神の意志で建国された」と主張し、イスラエルに向けた支援を訴えている。そのため、米国で国内世論の支持を得るためには、福音派の訴えるイスラエル支援を実施することが重要になると言われる。中東調査会の中島勇研究員は、「米連邦議員はイスラエルに批判的、といわれることに戦々恐々としている。これはキリスト教福音派の影響力だろう」と述べている。
(*2)なお、ユネスコからの脱退には2011年以降に滞納していた多額の分担金も関係していたとされる。米国は2011年から分担金の支払いを停止しており、2018年には約5億ドル(約900億円)の滞納金があった。
なぜ米国は、一度脱退したユネスコに再加入したのか?
その理由の一つは、バイデン大統領が掲げる外交政策にある。同大統領は、トランプ前大統領のアメリカ・ファースト政策に抗して、国際協調路線を採る動きを見せてきた。たとえば、2021年にはパリ協定、2022年には国連人権理事会へと順々に復帰を果たしている。今回のユネスコへの再加入は、このような国際協調を目指す動きの一環と言えるだろう。
しかし、米国が再加入した理由を押さえるためには、次の2つのポイントがより重要になる。