⏩ 霜害の拡大でブドウ収量が減少
⏩ 気温上昇でシャンパン特有の味わいも変化
⏩ ライバル産地が台頭する可能性も
2023年7月は、世界の平均気温が史上最も高くなる「世界で最も暑い月」となった。気候変動が世界各地で猛威をふるうなか、食料生産にも大きな影響が生じている。たとえば、酪農地帯の北海道では、今夏の記録的な暑さが牛へのストレスとなり、生乳生産量が急減している。
暑さの影響を受けているのは動物だけではない。野菜や果樹の生産にも気温上昇は影響を与えており、なかでも欧州でいま注目を集めているのは、シャンパンの生産に対する気候変動の影響だ。
シャンパーニュ地方のシャンパン
シャンパンといえば、フランス北部のシャンパーニュ地方を産地とするスパークリングワインだ(*1)。シャンパーニュ地方は、北緯50度付近に位置しており、その緯度は日本最北端・択捉島よりも高い。そのため気候は寒冷で、北半球でブドウが生産可能な北限に近い。
シャンパーニュ地方は、降水量も比較的多い。したがって、この地方でのブドウ栽培は霜害や病害の影響を受けやすく、ブドウが完熟しづらいと言われてきた。
一方、寒冷な気候は、シャンパン特有の味わいをもたらすカギともなる。一般的に、寒冷な地域ではブドウの熟成が進まず、ブドウの糖度が上がりにくい。そのため、寒冷な地域で収穫したブドウを原料とするワインは酸のきいた味わいとなりやすい。
シャンパーニュで生産されるブドウも、基本的には糖度が上がりづらい。もっとも、シャンパンの生産にあたっては、ドザージュと呼ばれる加糖作業が行われるため、加糖加減によってワインの味わいに幅が生じる。だが、一般的に寒冷な気候で生産されるワインがそうであるように、シャンパンの味わいも酸のきいた風味が基本的な特徴だ。
しかし世界的な気候変動は、このシャンパーニュの気候にも大きな影響を与えており、同地方の平均気温は過去60年間で約1.8℃上昇している。フランス語でテロワール(terroir)と呼ばれる産地の自然環境の変化は、ワイン生産に大きな影響を与える。
では世界的な気候変動は、シャンパンの生産に一体どのような影響を与えるのだろうか。
(*1)「シャンパン」は、シャンパーニュ地方で生産され、かつAOC法と呼ばれるフランスの原産地呼称管理法が定める基準を満たす必要がある。
「ポジティブ」な影響
寒冷な気候を特徴として生産されてきたシャンパンだが、実は気候変動による気温上昇には、生産にとってポジティブな影響も含まれている。