⏩ テクノロジーはあらゆる問題を解決、「AI は賢者の石」と発言
⏩ SDGs などは「ゾンビ的な悪い考え」の「敵」だと挑発
⏩ マニフェストという形式をとったことも注目理由
⏩ ファシストを「守護聖人」とするなどして批判
2023年10月16日(現地時間)、著名VC・Andreessen Horowitz(a16z)のマーク・アンドリーセン氏が「テクノオプティミスト宣言」と題する文章を自社サイトに投稿した。テクノロジーとそれを利用した加速度的な成長(*1)という未来へ向けた、楽観主義者(オプティミスト)による宣言(マニフェスト)だ。
宣言には、挑発的で大胆な内容が散見される。「AI は私たちの錬金術であり、賢者の石である」としているほか、ESG や SDGs、脱成長などは「敵」であり、「共産主義から派生したゾンビ的な悪い考え」だとこきおろしている(*2)。
こうした内容に対して、批判が巻き起こることは想像に難くないだろう。実際、資本主義やテクノロジーが全ての問題を解決してくれるかのような物言いは間違っている、とする声が出ている。
ただ、今回の宣言が大きな議論を巻き起こしている原因は、内容の挑発性や大胆さだけにとどまらない。マニフェストという体裁を採用していることや、その文体・言葉遣いにも独特さが見られる。
なぜ、アンドリーセン氏の宣言は注目を浴びており、そして批判されているのだろうか。
(*1)こうしたイデオロギーは「効果的加速主義」として、最近のシリコンバレーのトレンドになっている。加速主義は、哲学者ニック・ランドらによって唱えられ、資本主義の加速によって社会変革を志向する立場で、そこに効果的利他主義(データや根拠に基づき、インパクトを最大化させた効果的な寄付などの利他行為を志向する考え)の「effective」を組み合わせて生まれた用語だ。この用語は「e/acc」と略され、支持を表明するマーク・アンドリーセン氏や Y Combinator の ゲイリー・タンCEO などが X(Twitter)のプロフィールに記載していた。
(*2)引用中の太字はすべて筆者による。以下同様。
「テクノロジーの旗を掲げる時が来た」
その理由を理解するため、宣言の内容と具体的な文章に触れておく必要がある。後述するように、今回の宣言は挑発的な内容だけでなく、その文体や言葉遣いにも特異な点が見られる。そのため、個々の文章にも目を配る必要がある。
簡単に言えば、アンドリーセン氏が出した宣言は、テクノロジー、特に AI に対する楽観的な見方を提示し、その可能性を否定したり制限したりする考えを「敵」として描く内容だ。
宣言はまず、テクノロジーに関する「嘘」と「真実」について語るところから始まる。アンドリーセン氏は、テクノロジーが「未来を脅かし、あらゆるものを破滅させようとしている」という「嘘」によって「私たちは騙されているのです」と語る。
しかし、同氏に言わせれば「私たちの文明はテクノロジーの上に築かれた」というのが「真実」であり「テクノロジーこそ、私たちの可能性を実現するものだ」という。そして、「もう一度、テクノロジーの旗をかかげる時が来ました。テクノオプティミストになる時が来たのです」と宣言する。
なぜ、アンドリーセン氏はここまでテクノロジーにこだわるのだろうか。
「テクノロジーで解決できない問題はない」
前提として、アンドリーセン氏は経済成長こそが、大きな幸福に結びつくと考えている。そのうえで、成長の源泉として、人口増加・天然資源の利用・テクノロジーをあげ、テクノロジーが唯一の成長エンジンだと述べる。
なぜなら、先進諸国は人口増に歯止めがかかり、天然資源の利用には「現実的にも政治的にも厳しい制限がある」からだという。それゆえ、テクノロジーが「永続的な成長の唯一の源」になると主張している。
そして次のように述べて、問題に直面したとき、テクノロジーは常に解決策を提示してきたと謳う。
私たちには飢餓という問題があったので、緑の革命(*3)を発明しました。
私たちには暗闇という問題があったので、電気照明を発明しました。
私たちには寒さという問題があったので、室内暖房を発明しました。
私たちには暑さという問題があったので、エアコンを発明しました。
私たちには孤立という問題があったので、インターネットを発明しました。
私たちにはパンデミックという問題があったので、ワクチンを発明しました。
私たちには貧困という問題があるので、豊かさを生み出すためにテクノロジーを発明します。
現実世界の問題が与えられれば、私たちにはそれを解決するテクノロジーを発明できるのです。
同氏は「テクノロジーで解決できない問題はないと信じています」としつつも、テクノロジーが支配者になるとまでは考えていない。「私たちが頂点の捕食者」であり、「現在も、今までも、そしてこれからも、私たちがテクノロジーの支配者なのです」としている。
一方で、こうした社会問題に解決策を提示できるテクノロジーを規制したり、その開発を遅らせようとしたりする「敵」の存在を指摘する。
(*3)1940年代から60年代にかけて、新品種の導入や化学肥料の大量投入を通じて、穀物の生産性を大幅に向上させた農業技術革新。
SDGs は「ゾンビ的な悪い考え」
アンドリーセン氏は、「私たちの現在の社会は、60年に及ぶ戦意喪失キャンペーンに服従している」として、次の12個のアイデアを「敵」の例にあげている。
- 実存的リスク
- 持続可能性
- ESG
- 持続可能な開発目標(SDGs)
- 社会的責任
- ステークホルダー資本主義
- 予防原則(*4)
- 信頼と安全
- 技術倫理
- リスク管理
- 脱成長(*5)
- 成長の限界
続けて、「こうした戦意喪失キャンペーンは、過去の悪しき思考、すなわちゾンビ的で、多くが共産主義から派生し、当時も今も悲惨な考えを下敷きにしており、それらは死に絶えていないのです」と述べて、さらに「敵」を列挙する。
私たちの敵は、停滞です。
私たちの敵は、アンチ能力、アンチ野心、アンチ努力、アンチ達成、アンチ偉業です。
私たちの敵は、国家主義、権威主義、集団主義、中央計画、社会主義です。
私たちの敵は、官僚制、ビトクラシー(*6)、長老支配(*7)、そして伝統への黙従です。
私たちの敵は、汚職、規制の虜(*8)、独占、カルテルです。
ここまでの挑発的な物言いからも、すでに今回の宣言が物議を醸す理由が垣間見られるが、なぜ広く注目を集めているのだろうか。
(*4)主に環境保護に関わる文脈で使われる用語。化学物質や遺伝子組換えなどの技術に対して、環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼすおそれがある場合、科学的に因果関係が十分証明されない状況でも、規制措置を可能にする制度や考え方を指す。
(*5)経済成長を志向するグローバルな資本主義や大量消費社会は、人々を搾取し地球環境を破壊するとして、それを批判する考え方。パリ南大学のセルジュ・ラトゥーシュ名誉教授や、東京大学の斎藤幸平准教授などが主唱している。
(*6)「拒否権」(veto)と「支配」(cracy)を組み合わせた言葉。政治学者のフランシス・フクヤマが考案し、権力が分散し政府が重要な決定をできない状態を指す。
(*7)文字通り、高齢に達した人物たちによって支配される政治体制。近年、米国大統領選挙の候補者が軒並み70歳を超えており、長老支配と揶揄されることがある。
(*8)米国の経済学者ジョージ・スティグラーが唱えた学説。国などの規制機関が被規制側の勢力に実質的に支配されてしまうような状況を指す。日本の原子力産業においては、国(規制側)が電力会社(被規制側)に事実上、支配されていたと批判されている。
なぜ注目されるのか
その理由は、宣言が持つ2つの特異性から説明される。具体的には(1)著者であるアンドリーセン氏の特異性、(2)文体の特異性だ。
アンドリーセン氏の特異性
1つ目の理由は、著者のアンドリーセン氏が持つ特異性にある。具体的には、同氏がかつて、テクノロジー産業に関する未来を言い当てたことがあるという点だ。また、近年の AI の進化に関する文脈でもその発言は物議を醸している。
アンドリーセン氏は2011年、「ソフトウェアが世界を飲み込んでいる理由」と題する記事の中で、あらゆる産業はデジタル化の波に飲み込まれ、あらゆる企業はソフトウェア企業になるという主旨の大胆な予測をおこなった。
これはかなりの程度で未来を言い当てており、現在、あらゆる産業でソフトウェアが席巻している状況を私たちは目の当たりにしている。
そして2023年6月には、「AI が世界を救う理由」と題した投稿の中で、AI による人類滅亡のシナリオは「ヒステリック」な「妄想」だとこき下ろし、こうした考えには批判も巻き起こった。
今回の宣言は、6月の投稿と同様の主張を繰り返している。自動車事故やパンデミック、戦時中の同士討ちなどは AI で阻止できる死因だとして、AI の開発を減速させることは「ある種の殺人」とまで言い切る。
このように、アンドリーセン氏が発言したからこそ注目が集まったことはたしかだが、同氏の AI に関する大胆で挑発的な発言自体は今に始まったものではなく、今回の宣言が注目を集めた理由としては不十分だ。
そこで、6月の投稿とは文章の形式が異なる点がポイントになる。
体裁と文体の特異性
2つ目の理由として、宣言の体裁と文体が特殊な形式を採用している点があげられる。今回の宣言の原題は「The Techno-Optimist Manifesto」(テクノオプティミスト・マニフェスト)だが、この「マニフェスト」という体裁で書かれていることが重要だ。
マニフェストの語源はラテン語で、「公にする」や「明らかにする」という意味がある。マニフェストと言うと、選挙における公約をイメージする人もいるかもしれないが、今回の文章は選挙とは関係なく、一種の公的な宣言として理解できる。
公的な宣言としてのマニフェストが、すでに広く普及した概念や信念について語ることはまずない。マニフェストの目的は、未知のアイデアや社会的な同意が得られていないアイデア(たとえば、AI の開発をさらに加速させるべきだという考え)を中心に据え、運動を構築していくことだ。
そのため、マニフェストの目的はあるアイデアに反対する人々を説得することではなく、賛同者と反対者を区別することだ。
すなわち今回の宣言の目的は、テクノオプティミストに賛成する「信者」を結集し、鼓舞する一方で、反対する「敵」をあぶり出すことにある。
その意味で、すでに触れた引用部分などでアンドリーセン氏が「私たち」(We / Our)と繰り返していることは偶然ではない(*9)。なぜなら、「私たち」や「我々」は「彼ら」と違うという区別の仕方は、自らのアイデンティティや優位性を確立するために、歴史的に用いられてきた手法だからだ。
このように、今回の宣言は、後述するような内容に関する批判以前に、その体裁・文体・言葉遣いから、「敵」と「味方」を明確に区別する構図を意図的に作っている。「だからこそ、アンドリーセンの告発は大きな議論を巻き起こす」と指摘されるのだ。
では、具体的にどのような点に批判が投げかけられ、物議を醸しているのだろうか。
(*9)隣り合う節の先頭で、ある言葉(ここでは「私たち」)を繰り返してそれを強調することは、首句反復(頭語反復)と呼ばれる修辞技法の1つであり、キング牧師の「私には夢がある」(I Have a Dream)などの有名な演説でも用いられてきた。
なぜ批判されるのか
今回の宣言に対しては「危険な哲学だ」とするほか、「恐ろしく愚かなビジョン」を提示しているという批判が相次いでいる。
批判は、大きく3種類に分けられ、具体的には(1)内容に対する批判、(2)出典の妥当性に対する批判、(3)宣言が見逃していることに対する批判だ。
1. 内容
1つ目の理由は、宣言の内容に対する批判だ。このポイントは、さらに3つの指摘に分かれている。
1-1. 政治的な問題の軽視
第1の指摘は、テクノロジーが全ての問題を解決してくれるという楽観主義に関するもので、政治的な問題を軽視しているという批判が示されている。
たとえば SF 作家のテッド・チャン氏は、気候変動にも富の不平等にも技術的な解決策などなく、ほとんどは政治的な問題だと述べ、宣言に対して疑問を呈している。
他にも、新興メディア Current Affairs のジャグ・バラ氏とネイサン・J・ロビンソン氏は、この宣言において、害と利益をどのように分配するかという政治的な問題が回避されていると批判する。両氏は「市場の分配はグロテスクなまでに不公平」であり、資本主義市場とテクノロジーがすべての人々に豊かさをもたらすというアンドリーセン氏の主張は正しくない、と指摘する。
関連して、宣言の内容は、悪名高きトリクルダウン(富裕層が裕福になるにつれて、その富の一部が貧しい人々にも行き渡るという理論)の焼き直しに過ぎないとも言われる(*10)。トリクルダウン理論については、誤りであると繰り返し指摘されてきたため、アンドリーセン氏の主張は妥当性に欠けると考えられているのだ。
そして、このような資本主義やテクノロジーを称賛する考えは、社会の価値観に対する影響という懸念を喚起する。
(*10)宣言は、テクノロジーを生み出した人が、その経済的価値の2%しか保持しておらず、残りの98%は「社会に流出する」という経済学者ウィリアム・ノードハウスの主張に言及している。そのため、アンドリーセン氏は「技術革新は本質的に慈善的」だと述べている。
1-2. 社会の価値観に対する影響
第2に、宣言が社会における価値観に与える影響について懸念されている。ジャーナリストのエリザベス・スピアーズ氏は New York Times 紙に寄稿した文章の中で、次のように指摘している。
(アンドリーセン氏のマニフェストは)人々の主な価値は労働であり、社会や企業に対する貢献を拒否する態度や、無能であることは反社会的であることを暗示している。
アンドリーセン氏が「豊かさ」について語るとき、その意味するところは所得などの物質的な豊かさだ。そのためスピアーズ氏は、労働を通じて経済成長や物質的な豊かさに貢献できない人々が、社会に必要とされなくなることを危惧している。
他方で、豊かさは物質的なものにとどまらないと述べる人もいる。たとえば、ライターのステイシー・カレー氏は、自身も楽観主義者だと言いつつ、物質的な豊かさへフォーカスすることはむしろ悲観的な世界観だと語る。カレー氏は、愛の感覚こそが自らの楽観的な見方に根ざしていると言う。
内容や、その価値観をめぐって宣言に批判が集まっている一方で、アンドリーセン氏は自らの批判と矛盾する行動をしていると言われており、これが次のポイントだ。
1-3. アンドリーセン氏の矛盾
第3に、アンドリーセン氏の言行不一致を指摘する声がある。
たとえば、同氏は中央集権的なシステム(主に共産主義)を痛烈に批判する一方で、AI 開発などを推進する技術者たちが中心となって人々を統治することを推奨しているように見える、という批判だ。
他にも、技術倫理を「敵」と呼んでいるにもかかわらず、自社にも倫理規定を定めているではないか、といった批判や、アンドリーセン氏が取締役を務める Meta(旧 Facebook)には「信頼と安全」に取り組む多くの社員がいる、という批判が出されている。
このように、「宣言」の内容に関する批判が展開される一方、引用の出典先をめぐる批判も巻き起こっている。
2. ファシズムの推進者を「守護聖人」に
2つ目の理由は、出典の妥当性に関するものだ。引用した文書の作者がファシズムの推進者であり、その人物をテクノオプティミストの「守護聖人」(*11)の1人に挙げている点が批判されている。
今回の宣言には、20世紀初頭に出版された「未来派宣言」という文書にインスピレーションを受けた箇所がある。
時と場所が異なる、あるマニフェストを書き換えてみましょう。「美は闘争の中にのみ存在する。攻撃的な特徴を持たない傑作などない。テクノロジーは未知の力に対する暴力的な攻撃でなければならず、それを人間の前に屈服させなければならない」。
これは、テクノロジーが支配者になるわけではなく「私たちが頂点の捕食者」だと述べた部分だが、ここで言う「時と場所が異なる、あるマニフェスト」というのが未来派宣言のことだ。
未来派宣言第7条(Filippo Tommaso Marinetti, Public domain)
未来派宣言第7条を書き換えたテクノオプティミスト宣言の一文(Marc Andreessen)
未来派宣言は、1909年にイタリアの詩人フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティによって書かれたものだ。マリネッティは、1919年に「ファシスト宣言」を書いた人物で、同年にはムッソリーニが結成したイタリア戦闘者ファッシ(後のファシスト党)に参加している。
この未来派宣言を引用することについて、警戒感を示す人もいる。たとえば起業家のトム・コーツ氏は、未来派宣言の内容が、戦争や軍国主義を主張し、フェミニズムや博物館、図書館の破壊を謳うものだとして、「これに恐怖を覚える私が変なのでしょうか?」とコメントしている。
コーツ氏が言及したのは、未来派宣言の第9条(戦争や軍国主義、女性蔑視などの賛美)および10条(博物館や図書館の破壊、フェミニズムなどの「卑怯者」と戦うという内容)であり、アンドリーセン氏の宣言にその箇所が直接引用されているわけではない。
ただ次で見るように、他にも人種差別や女性差別的な言説を展開した人物が「守護聖人」としてあげられている。
(*11)「守護聖人」たちが残した文章を読めば、「あなたもテクノオプティミストになれるでしょう」として、ノーベル経済学賞を受賞した経済学者のミルトン・フリードマンや、シンギュラリティ(技術的特異点)の提唱者レイ・カーツワイルなどの名前が挙げられている。
人種差別や女性差別的な人物も引用
「守護聖人」の中には、人種差別や女性差別的な言説を展開した人物も含まれている。たとえば、19世紀から20世紀の米国の歴史学者フレデリック・ジャクソン・ターナーや、同国のエコノミストであるジョージ・ギルダーなどがあげられている。
また、引用されている人物が男性ばかりで、女性はほとんどいないという点も指摘された。ケンブリッジ大学の所属研究員であるサム・ギルバート氏は、宣言で引用されている人物を GPT-4 にリスト化させた。すると、29人のうち、1人を除いて全員が男性だったという(*12)。
アンドリーセン氏の宣言では以下のように、テクノロジーは人種や性別などを気にしない「開かれた社会」だとされている。
私たちは、テクノロジーが普遍主義であると信じています。テクノロジーは、あなたの民族性、人種、宗教、出身国、性別、セクシュアリティ、政治的見解、身長、体重、髪の有無などを気にしません。(略)テクノロジーは究極の開かれた社会なのです。
すでに触れてきたように、人種あるいは女性差別的な言説を展開してきた人物たちを「守護聖人」として列挙しているために、こうした文章は欺瞞に満ちたものと認識されているのだ。
ここまで、宣言に書かれている内容と、その出典の妥当性に関わるポイントが批判されている点を概観してきたが、次に見るポイントはアンドリーセン氏が宣言で言及せず、見逃しているとされる点だ。
(*12)1人だけ引用されていた女性は、米国の女優キャリー・フィッシャーだ。最も知られる出演作は、レイア・オーガナを演じた映画『スター・ウォーズ』シリーズ。宣言では、「恨みは毒を飲んで相手が死ぬのを待つようなものです」という発言がフィッシャーのものとして引用されたが、この発言が本当に彼女のものだったかどうかは論争的だ。
3. 宣言が見逃していること
3つ目の理由は、宣言が重要な論点を見逃しているとされる点に関わる。
まず、テクノロジーの開発を加速させた時の「意図せぬ結果」という言葉は宣言の中に登場しない。具体的には、気候変動や地球温暖化という、テクノロジーを推し進めた際の意図せぬ結果について、アンドリーセン氏は無視しているという。
もう1つ登場していないのが、暗号通貨やブロックチェーン技術だ。アンドリーセン氏率いる a16z が、暗号通貨の分野で最大の投資家の1つであることを考えると、これは「明らかな省略だ」と言われる。「守護聖人」の中には、ビットコインの開発者とされるサトシ・ナカモトの名前もない。
NBC 記者のベン・コリンズ氏は、a16z が最近、Web3 や暗号通貨といった領域から、米国の軍事・防衛技術に投資の軸足をシフトさせていると指摘する。
すなわち、Web3 やブロックチェーンといった、情報へのアクセスとデータ利用を民主化するアイデアから離れ、「悪びれることなく技術の進歩を優先するという構図を浮き彫りにしている」と批判されているのだ。
以上見てきたように、大手 VC のアンドリーセン氏が示した「宣言」はその内容だけでなく、体裁や文体なども論争の的になっている。
ただ一部では、同氏の「宣言」を称賛する声も聞かれた。AI 開発を進める Perplexity AI のアラヴィンド・スリニバスCEO は「マーク・アンドリーセンは、私たちのほとんどが言えないことを言う十分な勇気を持っています」と述べている。Reddit の共同創業者であるアレクシス・オハニアン氏も、11月上旬のイベントで自らを「テクノオプティミスト」と表現した。
ほとんどの反応は非難で溢れているが、アンドリーセン氏自身は、それを問題視したり反論によって説得されたりすることはないかもしれない。なぜなら、すでに触れたように、宣言の目的の1つは「敵」をあぶり出すことにあるからだ。
テクノロジーの進歩によってあらゆる問題が解決可能だという挑発的で大胆な宣言は、人々の反感を買っている。ただ、今回の宣言に対して批判の声をあげた人々は軒並み「敵」として認識され、スリニバスCEO やオハニアン氏のような人物は賛同者である「私たち」の側にいるとされるだろう。