政治家も学者もカネを稼いだやつがエラい、という話 - イシケンの部屋

公開日 2023年12月21日 14:45,

更新日 2023年12月21日 14:57,

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カネを稼いだやつがエラいのか?という問いは、それほど目新しい問いではない。

高山裕二氏の名著『トクヴィルの憂鬱』では、19世紀前半のフランスにおいて身分制が無くなったことで、自分が「何者でもない」という不安に苛まれる新しい世代の誕生が描かれる。『アメリカのデモクラシー』を描いた思想家、アレクシ・ド・トクヴィルも、そうした不安に鬱々となった1人だ。

身分制という強烈なアイデンティティの喪失によって生まれた「何者でもない」という不安は、金を稼ぐことや立身出世によって覆い隠す他なかった。先祖代々の「貴族だからエラい」という保証がなくなった時代、自尊心を保証してくれるのは、自身の「才能」や「努力」だけで獲得できた(と思い込めた)資本(財力)だった。18世紀から19世紀にかけてグローバルに拡大した資本主義は、現在まで私たちの価値観を形作っている。

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ところが、トクヴィルの死から160年以上が経過し、これほどまでに資本主義が徹底された現代でも、価値基準が資本ではない世界が残っている。政治家と学者の世界だ。前者は地盤や看板(知名度)が求められ、後者は研究実績がモノを言う世界だ。

もちろん、この2つの世界が資本主義と無縁と言うわけでもないし、資本があればどの世界でも「何者」かになれたり、無条件に評価されるわけではない。とはいえ、この2つの世界が資本主義から距離を取っていることは、大きな意味を持っている。政治家は賄賂を受け取るべきではないし、お金がない人々の声を議会に届けることこそ美徳とされる。学者もカネを払えばポストや名声が得られるわけではなく、ただ真理への到達のみが価値の中心にある。

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しかし実際のところ、そういうわけでもなさそうだ。どうやら自民党内で評価されるためには、派閥のパーティー券を沢山売る必要があるらしい。

もちろん「政治にカネがかかる」ことは昔から言われていたし、そもそも政治家に必要とされる地盤(集票力)・看板(知名度)・鞄(資金)の「三バン」も、突き詰めれば資本の論理だ。

とはいえ、政治家の資本をめぐって長らく批判が向けられてきたのは、ほとんどの場合、二世議員や金満政治に対してだ。つまり(敢えて言えば)たかだか数万円のパー券を手売りするような営業力ではなく、代々資産家の政治家が要職を占めている状況や(麻生太郎や安倍晋三、鳩山一郎などの首相経験者は多くが資産家一族だ)、何億円もの賄賂が飛び交い、道路や建物がつくられる構造が問題視されてきたのだ。「政治にカネがかかる」も「三バン」も、何となく念頭に置かれているのは二世議員や金満政治のような話であり、パー券のキックバックのようなスケールではないだろう。

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そして学者の世界にも、資本主義の波が容赦なく押し寄せている。今月13日、改正国立大学法人法が参院本会議で可決・成立したが、同法は国立大学を「稼げる大学」に転換するための動きとみる声もある。日本経済新聞の矢野寿彦編集委員は、以下のように述べる

研究型の大学として勝負するのなら「稼ぐ力」は必須である。1980年代以降、米国から始まり世界に広がった科学技術を核とする「知の競争」は、資本の論理にがっちりと組み込まれている。民間が牛耳る論文掲載誌の高騰や大学ランキングなどはその証しともいえよう。

え、論文掲載誌の高騰はダメやろwww というツッコミはさておき、少子高齢化が進む日本において、入学者の現象に伴う経営難は不可避であり、大学に資金調達の多様化が求められていることは間違いない。

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ここで自分が言いたいことは、政治家や学者の世界に資本主義を持ち込むのはけしからん!というナイーブな話でも、これが新自由主義だ!という使い古された分析でもない。(新自由主義という単語を絶対に使わない会会長ことイシケン)

一言で述べるならば、社会全体が貧しくなっているんだろうなぁ...という素朴な感想だ。

逆説的だが、資本主義の徹底は、経済的余裕がない状況でこそ求められる。ある種の余裕がある時、資金の調達方法や使途にはそれほど関心が払われない。それらが細かくチェックされたり、その推進や多角化が求められる時は、往々にして資金繰りに余裕がない時だ。(会社を経営していたり、部署予算を抱えていれば、よく分かるだろう)

自民党に企業から1,000億円近い政治献金が渡っていた1990年代から考えれば、議員が数万円のパー券を営業しているのは、なんとも隔世の感がある。「末は博士か大臣か」と羨望されていた職業は、ともに稼ぐ力が求められるようになったのだ。この変容は、社会全体に稼ぐ力がないことの裏返しなのかもしれない。

もちろんそれは、良く言えばガバナンスの徹底であり、説明責任を果たすことだ。悪く言えば、長期主義で物事を見れなくする懸念もあるが、ガバナンスが効いていない組織や社会よりはマシだろう。金満政治が蔓延る世界よりは、1円たりとも不正資金がない政治が望ましいし、「カネを稼ぐことばかり考えれば、基礎研究が疎かになる」という主張は一見すると尤もらしいのだが、分配的正義の観点から考えても説明は必要だし、現実的に全ての研究に金をつぎ込むことは難しいだろう。

余談だが、このあたりの話は効果的利他主義のうち長期主義の問題とも関係するだろう。長期主義に立つならば基礎研究への投資が望ましそうだが、それが全て効果的な結果を生むかわからない時、それらはどのように正当化されるのだろうか?などと考えている。下記の記事をぜひ。

効果的利他主義とは何か?サム・アルトマン解任劇で注目の思想
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とまあ、最後は雑な感想を放り投げたのだが、最も言いたいことは、ガバナンスや説明責任それ自体は望ましいだが、そのためのコストは下げてくれぇ〜という話だ。

何かというと、政治資金収支報告書が PDF で公開されている現状は、本当にどうにかしてほしい。しかも、エクセルなどを PDF 化したものではなく、手書き文字を大量に含んだ紙の書類をデータで取り込み、画像化したものであり、機械で読み取ることが非常に難しいのだ。....紙の書類をデータで取り込み、画像化した PDF....?? だと...??

たとえば岸田首相の政治資金収支報告書は、以下の通りだ。とにかく読みづらいのだが、これはまだマシな方で、訂正が手書きで書かれていたり、フォーマットがバラバラだったりと、もう何がなんやら。

岸田文雄首相の政治資金収支報告書
岸田文雄首相の政治資金収支報告書

実は、政治資金収支報告書をオンラインで公開する仕組みも、なんと20億円かけて出来ているのだが、これが全然活用されていない。デジタル庁は、今すぐこれを全ての政治家に義務付けてほしい。

政治資金収支報告書が PDF で公開されていることで、国民はもちろん、報道機関もカネの流れを追うことが難しくなっている。項目や団体を突き合わせたり、金額や日付で並べ替えたり、データを抽出したり、という基本的なデータベースとしての活用が出来ないからだ。

社会全体が貧しくなることで、政治家や学者に限らず、誰もが資本主義に飲み込まれていき、その先でガバナンスの徹底や説明責任を求められていく。そのこと自体は仕方がないのだろうが、その際、全ての関係者が非効率なやり方に疲弊することだけは避けたい。政治だけの話に絞ると、裏金はもちろん問題だが、個人的にはそれをチェックする仕組みが機能していないことが、もっと問題だと考えている。

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政治資金収支報告書については、OCR(光学的文字認識)機能を使ってデータ化したり、AI を使い類似項目を突き合わせることでデータベース化すること自体は可能だが、なかなか時間とコストが掛かりそうだなという印象。100万円くらいあれば、プロトタイプがつくれそうなので、冬休みの宿題として個人的にやってみようかなと思っているが、精度や持続可能性を考えると自力では難しそうなので、資金や技術などでご相談できる人がいれば、石田の X(のDM)までご連絡ください。

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✍🏻 著者
編集長 / 早稲田大学招聘講師
1989年東京都生まれ。2015年、起業した会社を東証一部上場企業に売却後、2020年に本誌立ち上げ。早稲田大学政治学研究科 修士課程修了(政治学)。日テレ系『DayDay.』火曜日コメンテーターの他、『スッキリ』(月曜日)、Abema TV『ABEMAヒルズ』、現代ビジネス、TBS系『サンデー・ジャポン』などでもニュース解説。関心領域は、メディアや政治思想、近代東アジアなど。
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