⏩ 一番の焦点はトランプ政権、関税政策や株価、安全保障など広範囲に影響
⏩ インフレは沈静化するも、経済格差が焦点に?
⏩ AIエージェントなどテクノロジーをめぐる競争は激化
⏩ 次の数年間、政治の季節が再到来か
昨年に引き続き、2025年に抑えたいキーワードを紹介する。昨年は「インフレ」や「AI」について触れたが、中でも弊誌の見立てが現実のものとなったのは「ガバナンス」に関する以下の記述だ。
2024年も、こうした問題は露呈していくだろう。その際、内部通報や告発などの重要性が高まってくると考えられる。上場企業でなければメディアや専門家など、外部からの圧力や透明性を求める動きが重要となるが、通報者・告発者の秘匿や告発内容の真偽確認などは課題も多いため、そうした議論も進んでいくだろう。
兵庫県知事選において公益通報制度のあり方や運用が議論となったが、それらを示唆するような論点となった。
2025年、押さえておきたいキーワードを紹介する。
1. トランプ2.0 とカウンターエリート
今年の不確実性を考える上で、最も重要な論点がトランプ新大統領にあることは、大半の論者が一致している。トランプの復帰は、米国経済や企業にとって楽観的な側面もあるものの、その関税政策や予測不能な言動は、世界経済のリスクとなっている。
関税政策を初めとする各種政策については、Red Sweep(レッドスウィープ)もしくはトリプルレッドと呼ばれる、大統領と両議会を共和党が掌握している状態によって、大統領の意向が通りやすくなっている。
これは前回のトランプ政権との大きな違いであり、「規制の少ない時代の幕開けとなり、米国の経済活動を活性化させる」可能性もあるが、同氏の"改革"が政治的混乱を招く可能性もある。
Project 2025 の実現
すでに、混乱の予兆はある。保守派の政府改革計画 Project 2025 の主要立案者であるラッセル・ボートが、行政管理予算局(OMB)局長に指名されたことだ。
Project 2025 は、保守派のシンクタンクであるヘリテージ財団から生まれたもので、教育省の廃止や各種 DEI(多様性・公平性・包括性)プログラムの終了、メディケアやメディケイドなどの資金削減、公務員保護制度の弱体化、気候変動に関する規制の大幅削減など、多様な論点が含まれた政策提言だ。
当初トランプ大統領は、過激な論調が批判された Project 2025 と自身の関わりを否定していたが、その主要立案者が制作担当者に任命されたことで、同プロジェクトが主張する内容が政策に取り込まれる可能性は高まった。
トランプ新大統領やイーロン・マスク氏が手掛けようとしている改革は、政府効率化省(DOGE)に代表されるように、既存のワシントン(行政機構)のあり方を否定するものだ。政府の効率化というアイデア自体は、Drain the swamp(沼を排水せよ、転じて「既得権益の排除」を指す)というロナルド・レーガン政権以来の「反既得権益」や「反ロビイスト」などの伝統的な主張と共通しているものの、トランプやマスクといったアウトサイダーが中核を担っていることで、予測不能性はかつてないほど高まっている。
弊誌は、こうした動きがカウンターエリートという概念と密接に関わっていると考える。同概念に関しては、今春に本誌編集長・石田らによる著書が発売される予定だ。
ポイントとなるのは、こうした動きが米国固有の現象ではないことだ。トランプ2.0 における政府効率化のプロジェクトが開始された場合、各国で反政府や反官僚、反エリートの動きは加速していくと予想される。
ただし2025年末には、トランプとイーロン・マスクの友情がすでに破綻しているだろうという予測もあり、両者の関係こそが2025年の行く末を占う鍵かもしれない。
2. インフレから経済格差へ
インフレについて、全体的な見通しは「抑制されるが、撲滅されない」だ。2023年頃から続いていた世界的なインフレ懸念は、ひとまず沈静化に向かっていると考えて良いだろう。
そして経済に関するアナリストの予想も、総じて楽観的だ。S&P 500 は、平均して約10%上昇すると予測されており、米国における株式のバリュエーションは上昇しているが、それほど「割高ではない」とも言われる。鈍化が予想されている中国経済は、世界経済の懸念材料となるかもしれないが、影響は限定的だろう。
高まる経済的不平等への懸念
しかし、こうしたマクロの楽観的予想に反して、経済格差に関する不満や怒りは高まっていくだろう。たとえば株式投資から利益を得ている人々と資産を持たない人々、ビットコイン(年内20万ドルの予想もある)の保有者と非保有者、値上がりする不動産を持っている人々とそうではない人々、両者の経済格差が顕在化することで政治的・社会的な反発が高まるはずだ。
インフレは沈静化しつつあるものの、食品やエネルギーなど生活必需品の価格は引き続き上昇しており、低所得者層の負担が、相対的に高まっているからだ。たとえば今年の春闘では、連合が中小企業の賃上げ目標を6%以上として掲げているが、中小企業の半数は賃上げが未定もしくは予定せずとなっており、大企業との格差が目立つ。賃上げの好循環の恩恵を受けれない人にとっては、ますます賃金格差や困窮を感じる局面が増えていくことだろう。
ただし公平を期すために触れておくと、2000年代以降、上位層と中間層の収入格差は拡大傾向だが、下位層と中間層の格差は大幅に縮小しており、「全体的な不平等は拡大していない」とも言われる。日本でも、2014年から2017年にかけてジニ係数(当初所得=再分配前)は低下しており、最新の2021年の調査でも横ばいとなっている。特に高齢化要因を除いた場合、ジニ係数はほぼ横ばいだとする研究もある。
とはいえ、多くの先進国で中間層が消失しつつあり、社会がこうした不満を受け止めきれるかは重要な論点となっていくはずだ。昨年、楽天グループの三木谷浩史会長兼社長が、富裕層の課税強化などを打ち出した経団連の政策提言を「頑張って成功した人に懲罰的重税、正気か」と批判したことは、示唆的かもしれない。再分配のあり方について、議論が高まる1年になるだろう。
3. 高齢化の時代(2025年問題)
日本の経済格差の主要因が高齢化であるならば、状況はますます悪化していく可能性が高い。「2025年問題」は、それを象徴する論点だ。
全ての団塊の世代(1947年から1949年生まれ)が、75歳以上の後期高齢者となる2025年は、社会保障制度がますます困難な時代を迎えることを意味する。医療費や介護費の急増により現役世代や企業の活力が失われることが懸念されており、世代間格差が世代間対立へと結びつく可能性もある。75歳以上の高齢者は、10年前の1,700万人から約2,200万人へと増加しており、その社会的負担は現役世代に重くのしかかっている。
経済格差や高齢化が覆う社会的背景の中で登場したのが、103万円の壁や社会保障改革などをアジェンダに掲げる国民民主党だ。しかし同党が掲げた103万円の壁突破が現実の制度に落とし込まれるには、1年以上の時間が予想されており、社会保障制度改革の議論がはじまるのは、先のそのまた先になるだろう。
今夏に予定されている参院選(7月28日、衆議院を解散して衆参同日選挙の可能性も囁かれている)で、国民民主党が改めて議席数を伸ばさずに現状維持の流れが続くならば、制度改革の実現性は低くなり、国民の間に無力感が漂うかもしれない。
世界で高齢化が進む
ただし、この問題は日本に限ったものではない。2025年、世界のリーダーたちの平均年齢はかつてないほど高齢化しており、過去50年間で全リーダーの平均年齢は55歳から62歳に上昇した。バイデン大統領は81歳、トランプ新大統領は78歳だ。(それに比べると、67歳の石破茂首相は若者に見えてくる)(*1)
しかし問題は、世界全体が高齢化しているという事実だ。中国の出生数は急減しており、2035年までに中国人の3人に1人が60歳以上となる。韓国も超少子化と超高齢化が進行しており、2040年代前半には日本を抜くペースだ。
単一の劇的な解決策はないものの、次の四半世紀が高齢化の時代となることは間違いない。各国が制度改革に乗り出せるかは未知数だ。
(*1)もちろんアイルランドのサイモン・ハリス首相(38歳)やフランスのエマニュエル・マクロン大統領(47歳)、カナダのジャスティン・トルドー首相(53歳)などもいる。民主主義国家は、権威主義国家に比べてリーダーは若い傾向にあり、米国が例外とも言える。
4. テクノロジー戦争
昨年の AI 業界は、テクノロジー楽観主義が批判され、サム・アルトマンが解任された2023年の狂騒に比べると穏やかなものだった。「印象的な技術が私たちを驚かせたり、消費者向けの大ヒット製品が登場するよりも、確実なコスト低減や社会実装が進みそうだ」という予想通りとなった。
2025年から向こう数年間にかけては、テクノロジー戦争が激化していくだろう。
具体的に言えば、AI 技術そのものに限らず、その軍事転用やデータセンター建設をめぐる競争、量子コンピュータや次世代革新炉、核融合発電などディープテックへの投資、気候変動対策をめぐるバックラッシュと投資のせめぎ合いなどが顕在化する見込みだ。
企業同士の競争はもちろんのこと、国家による競争が水面下で激しくなるだろうし、サイバーセキュリティやロボティクス、防衛テックなど安全保障と直結する領域でも大きな動きがあるかもしれない。
AI エージェント、ビットコイン、自動運転
とはいえ、足元では多くの予想がされているように、2025年のテクノロジーの目玉は、AI エージェント(旅行の予約や買い物、メールの返信など特定のタスクを実行する自律型の AI システム)やビットコイン、自動運転などだろう。
バイオテクノロジーの領域でも向こう数年以内に大きな変化が生まれるだろうが、それが今年になるかもしれない。コロナワクチンで知られるモデルナは、mRNA技術を用いたがんワクチンを開発しているが、2025年に重大局面を迎えるかもしれない。
私たちにとって大きな問題は、世界的なテクノロジー戦争の波に日本が乗れているのか、ということだ。弊誌動画で、暗号資産に関する税制改正の可能性が言及されてから数日で、金融庁による令和七年度税制改正大綱において課税見直しの検討が明記された。しかしトランプ新大統領が、米国をビットコイン大国にすると述べ、中国やロシアなどの大国もドル覇権主義に変化が訪れるかを注視している中、日本の動きは決して早いとは言えない。
AI の加速
その投資額に比して収益化やユースケースが不足しているため、AI にとって今年が正念場だと言われているにもかかわらず、ビジネスパーソンは AI からますます逃れることが出来ないだろう。
たとえば弊社が提供する情報活用サービス Station も AI エージェントのような働きを目指しているが、事業に必要な情報(ニュースに限らず、価格情報や法令改正などのあらゆるデータ)が必要なタイミングで届き、それらが社内のワークフローと自律的に接続される時代がやってくると確信している。それらは、ある日劇的な変化として現れるというよりも、気付かないうちに少しずつ業務フローへと染み出しているだろう。
あるいは、AI によって生成されたコンテンツ(音楽や動画)は、いまや人間によって創作されたコンテンツと見分けがつかないようになっている。最近では、すべて AI によって生成された楽曲のみがアップされた YouTube チャンネルが人気を集めている。
日本社会は、AI にオープンであるものの活用では遅れを取っていると指摘される。こうした評判を覆せるかは注目だ。
5. 海洋秩序やサイバー空間の混乱
昨年は、注目のキーワードとして「自然災害(地球沸騰)・紛争」をあげた。2024年の米国における検索トレンドには、ハリケーンや熱気注意報(Heat advisory)が含まれており、まさに気候変動によって市民の命が脅かされる1年だった。今年も気候危機の悪化は加速するものの、取り組みは停滞するだろう。
また今年は、ウクライナ・ロシア戦争やイスラエル・パレスチナ戦争の停戦を期待する声もある。中国をめぐっては、台湾有事よりも南シナ海問題が懸念材料だという指摘もある。シリアのアサド政権の崩壊などによって、中東のパワーバランスも変化するかもしれない。
こうした中で、敢えて地上以外の安全保障にも注目する必要があるだろう。具体的には、海洋秩序やサイバー空間、宇宙空間だ。
まず、世界で同時多発的に、複数の海洋秩序が悪化していると言われる。世界貿易の80%以上を占めている海上輸送はサプライチェーンの核となっており、海底パイプラインや通信ケーブルもまた、世界経済のインフラだ。昨年も、リトアニアとスウェーデンをつなぐバルト海の通信用海底ケーブルが突如として切断され、ロシアによる犯行だと目されている。日本、米国、オーストラリア、インドによる協力枠組み Quad でも、海洋安全保障の連携強化が議題となった。
宇宙空間をめぐる変化は、言うまでもない。SpaceX がロケットをキャッチし、打ち上げコストが低廉化し、衛星ビジネスが興隆する現在、宇宙業界はかつてないほど盛り上がっている。一方で、宇宙鉱物の採掘ビジネスは次なるフロンティアとみなされているが、その規制やレギュレーションが曖昧であることから、騒乱の火種となっている。
サイバー空間については、昨年末に日本航空と三菱UFJ銀行が相次いでサイバー攻撃を受けたことが象徴的だ。ロシアや中国などはサイバー攻撃を質量ともに増加させており、日本政府が激変する環境に対応できているかは疑わしい。
次の混乱は、地上からの侵攻ではなく海洋秩序やサイバー空間、宇宙空間にある。
政治の季節2.0へ
ここまで、2025年の注目すべき5つのキーワードを見てきた。では、向こう数年間にかけての変化はどうだろうか。
1960年代、日本の学生運動や安保闘争、米国のベトナム反戦運動や公民権運動など、世界各国で同時多発的に政治・社会的な運動が立ち上がった。これは「政治の季節」と呼ばれる時代であったが、2025年から数年間は、そのリバイバルとなるかもしれない。
ただし、それは大規模なデモや投票率の高まり、あるいは予想外の政治的イベントが直ちに生じる、という意味ではない。
カウンターエリートや経済格差の箇所でも述べたように、人々の不満や批判は各国で高まっている。こうした感情が、政治や社会への関心を高めて、人々の議論を引き起こすようなイメージだ。こうした議論が、実際の行動につながっていくかは不透明であるし、そうした議論が混乱を呼ぶのか、それとも前向きな変化を起こすかは分からない。日本でも立憲民主党が選択的夫婦別姓の導入に向けて法案提出を予定しており、社会的な議論が予想されるし、前述したように再分配のあり方をめぐって対立が顕在化するかもしれない。
いずれにしても企業にとっては、市場や競争環境のみに目を向けるのではなく、自社のビジネスが置かれた政治・社会的状況に配慮する必要性が生じてきている。すでに多くの企業は ESG や DEI をめぐって対応を迫られてきたが、こうした動きはますます顕著になるはずだ。
ワイルドカード
未来予測は、往々にして不正確なものだ。しかし曖昧で、「何かを言っているようで何も言っていない」説明をするよりも、謬りを犯すリスクを取ってでもポジションを取ることは、メディアにとって誠実な姿勢だと考えている。(来年再び、この予想を振り返る予定だ)
ただし、全く予測不能なワイルドカードも存在する。
たとえば昨年から、トランプ新大統領への暗殺未遂が繰り返されている。今月1日にも、米西部ラスベガスのホテル前でテスラ社の電気自動車(EV)が爆発し、テロとの見方もある。容疑者として、陸軍特殊部隊(グリーンベレー)隊員の名前があがっており、衝撃が広がっている最中だ。また記事執筆時点(3日20時)でも、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の拘束をめぐって捜査機関と大統領の警護組織の対立が続くなど、戒厳令に端を発する混乱は尾を引いている。
政治的リーダーの生命を脅かすテロ、リーダーや政府関係者によるクーデターのような民主主義を脅かす出来事、パンデミック、内戦、世界経済の大規模な混乱を生むような恐慌など予想外のイベントが発生した場合、政治の季節と呼ぶに相応しい混乱が、どこかの国で顕在化する可能性は十分にあるだろう。