⏩ MLB 規則では野球賭博に関与した選手は永久追放
⏩ その他のスポーツの賭けは、コミッショナー判断
⏩ 法的には「違法業者への借金返済=賭博業に関与」となる可能性あり
2024年3月20日(現地時間)、MLB(大リーグ)ロサンゼルス・ドジャースで大谷翔平選手の通訳を務める水原一平氏が、球団から解雇された。球団は理由を明らかにしていないが、水原氏の違法賭博が原因と見られている。
21日、アメリカ内国歳入庁(IRS)は、水原氏および違法なブックメーカーの胴元であるマシュー・ボウヤー氏について、刑事捜査をおこなっているとした。
水原氏は、スポーツ専門チャンネル・ESPN とのインタビューで、自分が(カリフォルニア州では違法な)スポーツ賭博にのめり込んで、大きな借金を作ったことを認めている。
現在、大きな関心を集めているのが、本件における大谷選手の関与だ。本誌記事でも取り上げた通り、水原氏の発言には曖昧な部分がある。水原氏は自身の借金返済について、当初、大谷選手に肩代わりしてもらったと話していたが、後に「嘘をついた」として、大谷選手の関与を全面的に否定した。
大谷選手含め関係者が口を閉ざす中、同選手の今後について、球界からの永久追放の可能性すら取り沙汰されている。大谷選手は、永久追放処分を受けることになるのだろうか。
賭博に関するメジャーリーグの規則
まず、MLB が賭博に関して定めている規則をおさえておく必要がある。前提として、MLB の公式規則(*1)は、選手・審判・球団職員などに対し、スポーツ賭博を全面的に禁止しているわけではない。ただ、不正行為にあたる賭博として、次の3つをあげている(太字は引用者による、以下同様)。
- 賭博者自身が関与していない野球の試合に賭けた場合、1年間の資格停止
- 賭博者自身が関与している野球の試合に賭けた場合、永久に資格停止
- 違法なブックメーカーやその代理人と賭けをした場合、行為の事実と状況に照らして、コミッショナーが適切とみなす罰則
(1)と(2)は野球の試合に賭けていた場合の規定で、(3)は野球に限らず、いかなるスポーツについても違法なブックメーカーと賭けをしていた場合の規定だ。後述する通り、今回のケースは(3)に該当するケースへと発展する可能性がある。
(*1)ここで言う規則とは、試合やスコアのルールを定めた規則(いわゆる公認野球規則)とは別に、メジャーリーグや傘下のマイナーリーグの選手、審判、球団職員などに規定される、ビジネス・ルールのようなものを指している。
過去の追放例
アメリカの野球と賭博(往々にしてそれは八百長と絡んでいた)の歴史は、記録があるもので19世紀にまで遡るが、中でも特に重大な事件とされるのが、1919年のいわゆるブラックソックス・スキャンダルだ。
当時、シカゴ・ホワイトソックスの一部選手は、1919年のワールドシリーズで、犯罪組織の大物アーノルド・ロススタインから金銭と引き換えに負けるよう言われた。その後、選手たちは刑事責任こそ問われなかったものの、8人が MLB から永久追放処分を下されている。
戦後で言えば、最大の賭博スキャンダルはピート・ローズ氏のケースだ。ローズ氏は、1963年から86年まで活躍し、歴代最多記録の4,256安打を残したが、1989年、野球賭博をした疑いで球界から永久追放された(*2)。
また、MLB では過去に、前述した(3)の規定に違反したとして、追放ではないが処分を受けた選手もいる。2015年、当時マイアミ・マーリンズの選手だったジャレッド・コザート氏は、違法なブックメーカーを利用して野球以外のスポーツに賭けたとして、MLB から罰金処分を下された。
(*2)当時、Sports Illustrated 誌がローズ氏の野球賭博疑惑を報じ、MLB もそれを調査したが、ローズ氏は疑惑を否定し続けた。その後、ローズ氏が永久追放処分を受け入れるかわりに、MLB が疑惑の正否を認定しない取り決めが交わされた。ローズ氏は2004年、監督として賭けをしていたことを認め、2015年には、選手時代にも賭けをしていたことを示唆するノートが見つかっている。
大谷選手は永久追放されるのか?
前提として、連邦捜査局(FBI)による刑事罰の判断と、コミッショナーが選手に下す罰則は、理論上関係がない。現に、前述したブラックソックス・スキャンダルでは、刑事罰に問われていない選手が MLB から永久追放されている。
そのうえで、大谷選手が永久追放されるかについては、大きく2つの論点がある。