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東京都知事選、なぜ石丸伸二氏は躍進し、蓮舫氏は低迷したのか - イシケンの部屋

公開日 2024年07月08日 20:30,

更新日 2024年07月08日 20:30,

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この記事のまとめ
💡2024年東京都知事選、小池百合子氏が勝利 = 石丸氏が当初予想上回り2位、蓮舫氏は低迷

⏩ 石丸氏の躍進、共産党の責任?有権者の非合理性?愚かな若者?
⏩ ポイントは無党派層、政治的ラベルが鍵か
⏩ 「革新」的イメージとチャレンジャーとしての一貫した姿勢が評価?

7日おこなわれた東京都知事選挙は、現職の小池百合子氏が291万8,015票を獲得して、3回目の当選を果たした。2位には、165万8,363票を獲得した前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏がつけ、元参議院議員の蓮舫氏は128万3,262票となった。

本選挙戦については、小池氏と蓮舫氏を軸とした「与野党対決が鮮明」とも言われ、事前調査では石丸氏が蓮舫氏の後を追うものの「苦しい」と報じられていたため、蓮舫氏が石丸氏の得票を下回ったことを受けて「石丸ショック」と呼ぶ声もある。一方で石丸氏をめぐっては、TBSの単独インタビューで質問者からの問いに対して「なんという愚問ですか」と応じたり、各社のインタビューに対して「腑抜けたインタビューさせるんじゃないよ」と評するなど、挑戦的な姿勢を見せることで賛否を集めている。

なぜ、今回の都知事選はこのような結果になったのだろうか?(*1)

(*1)本記事は、執筆時点で十分なデータが揃っていないため、通常の「ニュース解説」ではなく筆者の「個人的見解」として提示する。

終始安定した小池支持

まず前提として、小池氏への支持は選挙戦全般を通じて安定していた。たとえば新聞各社がおこなった先月21-23日の調査や22-23日の調査では、いずれも小池氏が「先行」とされた。30日の調査や29-30日の調査でも、「先行」や「やや先行」とされており、これまで現職が無敗となってきた都知事選で安定感を示してきた。

実際、8年間に渡る小池都政への評価については、「大いに評価する」(6%)と「ある程度評価する」(63%)の合わせて69%が「評価する」と答えており、18歳以下を対象とした毎月5,000円給付や、所得制限の撤廃を踏まえた高校授業料の実質無償化など、子育て関連政策などに評価が集まったとみられている。

小池氏が幅広い層から支持されたことは、出口調査からも示されている。小池氏は自民支持層の67%、公明支持層の77%の票を獲得した他、立民支持層の19%、共産支持層の10%も獲得している。そして勝負の行方を決めると考えられていた、支持政党を持たない無党派層についても、31%を獲得した。有権者が重視する政策は、「景気や雇用対策」、「少子化対策や子育て支援」、「政治とカネの問題」と続いていることから、子育て政策の実績を打ち出した小池都知事との整合性が高かったことが予想される。

そのため小池氏の勝利については、事前予想通りの結果となった。

有権者の非合理性

一方、小池氏を追う展開とみられていた蓮舫氏が3位に沈んだことや、7つのゼロ公約について未達成となっている小池都政への批判的見解から、有権者の投票行動に非合理性を見出す声もある。

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たとえば青山学院大学の中野昌宏教授は、今回の選挙戦の結果を受けて「まだ騙される人がたくさんいることが可視化されました」と指摘する。

また早稲田大学元客員教授の佐々木敦氏は、組織票以外で選挙に行った有権者は「ネタ」あるいは「中身ではなくイメージ」で投票したと分析している。

しかしながら、政治学において最も基本的なアプローチの1つである合理的選択理論(人々が、自分が持つ選択肢の中でもっとも得をするものを選択するという行動原理にもとづく理論が示唆するように、自分の意に沿わない結果をもたらした有権者を「非合理的」だと分析することは、適切な態度ではない。なぜなら、意に沿った結果であれば「今回は合理的に行動した」と言えてしまい、そうでないときは「今回は非合理的だった」と言えてしまうことから、それは何も説明していないことに他ならないからだ。

なぜ石丸氏は躍進し、蓮舫氏は低迷したのか

そのため、まずは「有権者は合理的に行動する」ことを前提に置いて、本選挙戦の結果を検討する。

前述したように、小池氏の勝利は、有権者が求める政策と同氏の訴える政策が整合的であったため、終始安定した支持を集めた結果だったと言える。問題となるのは、2位と3位の結果、すなわち石丸氏の躍進と蓮舫氏の低迷がなぜ生じたか?だ。

共産党 "戦犯" 説

まず蓮舫氏の低迷については、共産党との連携が裏目に出たという指摘がある。「共産党との連携が裏目に出たのではとの指摘がある」というや「『共産色』が強すぎて無党派層の支持が逃げたのが敗因の一つだ」などの指摘だ。実際に今回の選挙戦では、立憲民主党の野田佳彦元首相や枝野幸男前代表だけでなく、共産党の志位和夫議長や小池晃書記局長などが蓮舫氏の応援に回っていた。

これまでも立憲と共産党の共闘については、党内外から批判する声もあり、たとえば立憲の支援組織である連合は「連携していくことは非常に難しい」と後ろ向きな姿勢を示してきた。蓮舫氏は「共産党さんをはじめ、本当に多くの応援の力をもらったことは私の財産だ」と振り返ったものの、選挙結果を受けて、立憲内から野党共闘を見直す声は強くなるだろう。

しかしながら、野党共闘は必ずしも常に失敗してきたわけではなく、たとえば今年4月28日投開票となった衆院3補欠選挙では立憲が全勝しており、共産党との候補者一本化がおこなわれている。そのため今回の選挙結果の戦犯を全て共産党に帰するのは、適切ではない。

無党派層の投票行動説

あわせて指摘されているのは、無党派層からの支持を得られなかったことだ。これは前述の出口調査からも明白であり、蓮舫氏は17%にとどまっており、小池氏(31%)や石丸氏(38%)を大きく下回っている。

しかしながら、無党派層からの支持を得られた、もしくは得られなかったことは「結果」であり、その「原因」ではない。むしろ、なぜ蓮舫氏が無党派層から支持を得られず、石丸氏が得られたのか?という点こそが論点となる。

無党派層の投票行動についても、共産党との関係から「共産党色が全面に出てしまうことで無党派層から嫌われるのではとの危機感」があったとされるが、こちらは前述の通り、適切な分析ではないだろう。

愚かな若者説・SNS効果説

こうした無党派層の行動を読み解く上で、1つ鍵となるのが若者だ。有権者の中でも、10代から30代までの有権者は石丸氏を最も支持している。では、石丸氏がなぜ若者を取り込めたのか?という問いについては、主に2つの方向性がある。

1つは、若者が愚かであるという立場だ。SNS などには、今回の選挙結果を受けて若者の投票行動を否定的にみる言説があがっている。

しかし前述したように、本記事は、ある有権者グループの投票行動を非合理的と否定する見方には与しない。また、そうした見方に立った場合、過去10年間の国政選挙において若者が自民党に投票する傾向があることが繰り返し指摘されてきたが、本選挙戦において投票行動を変更した、具体的には自民党から支持を受ける小池氏ではなく石丸氏に投票先を変えた理由が説明できない。

もう1つは、SNS などネットによる効果だ。この見方については、すでに多くのメディアでも説明されている。たとえば読売新聞は、その躍進を「SNSを駆使して急速に知名度を上げ、既成政党への不信を背景に、若い世代を中心とする無党派層の受け皿になった」と分析する。また日本経済新聞も「SNS(交流サイト)を駆使し、支持層を広げた。ユーチューブやX(旧ツイッター)で街頭演説などの動画を連日配信し、支援者ら陣営以外のアカウントが広く拡散した」ことが支持拡大に繋がったと見る

こうした分析は説得的ではあるものの、一面的でもある。なぜなら、すでにネットは若者のものではなく、全世代にリーチ出来る媒体だからだ。たとえば YouTube は国内の月間視聴者が7,120万人となっているが、そのうち「45〜64歳は2,680万人以上と同世代人口の79%以上を占め」ている。X や Instagram、TikTok など、それ以外の SNS も若者ほど利用率が高いものの、人口比で考えた場合、40代以上の利用者数は決して少数派ではない。

小池氏や蓮舫氏よりも当初の知名度で劣る石丸氏が、投票の選択肢にあがってきたという意味では、SNS の役割は大きかったと言えるし、その躍進において SNS の効果は小さくないだろうが、認知を得た上での投票行動を決定づけるためには、それ以外の要因を考える必要があるだろう。

イデオロギー影響低下説

以上のように、すでに報道されている共産党 "戦犯" 説や無党派層の投票行動説、若者愚か説・SNS効果説などは、いずれも石丸氏の躍進と蓮舫氏の低迷の説明として不十分であると考えられる。

そこで考えたいのが、日本人のイデオロギー認識だ。早稲田大学の遠藤晶久教授と同大のウィリー・ジョウ准教授が明らかにした(*2)ように、 「保守」と「革新」という政治的ラベルは、従来認識されてきたものから変化している。

そもそも、日本の戦後史において「保守」とは自民党を中心とする政治勢力であり、憲法改正や日米安保条約、再軍備などを是とする勢力だった。一方の「革新」とは、社会党・共産党などの反自民勢力であり、護憲などのイメージと結びついてきた。ところが現在、高齢者は従来のイデオロギー認識によって共産党を「革新政党」と考えているものの、若年層は「既得権益への挑戦」や「改革派」というイメージから、維新の会などの政党を「革新」として理解している。いわば、「革新」は「『改革』程度の意味として理解されている可能性がある」のだ

つまり、これまで「左派 = 革新 = 共産党」と捉えられてきた政治的ラベルや、そうしたイデオロギーを支えてきた外交や安全保障をめぐる議論(具体的には日米同盟や憲法九条の議論)は、若者の間では自明なものではなく、むしろ「既得権益への挑戦」や「改革派」というイメージこそが、政党や政治家を理解する上で重要である、という示唆が考えられる。

(*2)Willy Jou, Masahisa Endo. (2016) Ideological Understanding and Voting in Japan: A Longitudinal Analysis, Asian Politics and Policy: Volume8, Issue3(pp.456-473)、遠藤 晶久, ウィリー・ジョウ『イデオロギーと日本政治―世代で異なる「保守」と「革新」』新泉社、2019年2月など

「革新」的イメージへの支持

若者や無党派層で広がった石丸氏への支持を考えるうえでは、こうした視点が重要となるかもしれない。

結論を先取りするならば、石丸氏はその「革新」的なイメージをつくりあげることに成功し、それは自民党の裏金問題や政治の透明化などを訴えた「保守」的な(と見做された)蓮舫氏を上回る支持に繋がった可能性がある。特に若者や無党派層の間では、そうした "脱政治" 的なイメージが支持される傾向にあり、そうした主張が SNS でのイメージや選挙手法と噛み合うことで、同氏の票を押し上げたと言える。

このポイントは、大きく2つある。1つは、石丸氏が個別具体的な政策を掲げるというよりも、「政治屋の一掃」という "脱政治" 的なメッセージを掲げたことだ。

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たとえば経済政策について、石丸氏は自らを「経済のプロ」と呼び、教育への投資を掲げるものの、公約などでは「教育の深化・進化」や「外需を取り込み」など抽象的な文言も目立った。しかし当初から一貫したのは、「国政の代理戦争をしている場合ではない」として「政治再建」を掲げる姿勢だ。

蓮舫氏も自民党政治や裏金問題の争点化を目指して主張を繰り広げてきたという意味で、既存勢力へのチャレンジャーとしての姿勢を示したかったものの、石丸氏のフレームにおいては、あくまで既存政治家の1人として位置づけられた。言い換えれば、裏金問題を「政治」の問題として捉えるのではなく、「自民党政治」の問題として捉えている時点で、それは従来の "政治" の枠組みと見做される、ということかもしれない。

もう1つは、このメッセージに説得力をもたせる、チャレンジャーとしての一貫した姿勢だ。

すでに述べたように、たとえば維新の会は「既得権益への挑戦」や「改革派」というイメージによって「革新」としての像を得ている。(*3)こうした手法は、大阪市長などを努めた橋下徹氏が公務員組織や外郭団体などを次々と既得権益と名指しして、支持を確立していった様子と重なる。

石丸氏が、既得権益の代表格として名指しするのが、政治家とメディア(大手報道機関)だ。前者については、選挙当初から「政治屋の一掃」を掲げており、後者については選挙期間中においても、そうした言動を隠さなかった。

たとえば、選挙後の会見において敗因を聞かれた際、「メディアが当初全く扱わなかった」と述べて、支持者から喝采を浴びた。

また、選挙後のTV出演では「政治屋」の定義を尋ねた古市憲寿氏と石丸氏の会話が噛み合わなかったことが話題となったが、この動画には「悪意しか感じないわ。メディア終わってる」や「メディアは本当に信用ならん偏向報道しかしない」、「もうマスコミは信用に値しません」などのコメントが並んでいる。

「SNS の活用」が単純接触効果に繋がっているだけではなく、旧来メディア(報道機関)と新興メディア(SNS)という二項対立を生み出し、前者を既得権益や偏向の代名詞として名指しすることで、チャレンジャーとしてのキャラクターを際立たせていることが示唆される。

こうしたメッセージや姿勢が支持に繋がっていることは、「これまでの都政に大きな不満を持っていたわけではないが、強い閉塞感は感じていた」という同氏のボランティアや、「小池氏や蓮舫氏の主張については『あまり知らない』といい、石丸氏に実現してほしい政策は『特にはない』ものの、『石丸さんは人柄を信用できる』と期待する」支持者の声などからも示唆される。

具体的な政策選好ではなく、政治に漂う閉塞感や既得権益を打破してくれるイメージやキャラクターに期待して、石丸氏に投票する無党派層の存在だ。

(*3)地域政党である大阪維新の会と、国政政党である維新の会の違いに注意。

古くなった「革新」

こうした「革新」的な石丸氏のイメージと対象的なのが、蓮舫氏だ。前述したように、同氏は「自民党政治」へのチャレンジャーを自認しているものの、その政治スタイルは政治家そのものであり、(本来は革新に分類される)リベラルでありながらも「保守」的なイメージを崩せなかった可能性がある。蓮舫氏は、従来のイデオロギー区分に従えば、もちろん「保守」ではないが、若者層にとって「改革派」ではないという意味では「保守」派と理解されているのかもしれない。

興味深いのは、蓮舫氏の演説の様子だ。

音楽を流して、色とりどりのファッションやプラカードを持つ様子は、10年前の政治デモ活動を彷彿とさせる。安倍政権による安全保障関連法案に反対する学生団体 SEALDs などが主導したデモ活動は、そうした様子から「日本の学生運動に新時代か」と評された。当時は「革新」的だった政治参加のあり方も、10年が経過したことで、新たな「革新」によって塗り替えられてしまい、「保守」的な選挙活動と見られているのだろうか。

終わりに

改めて確認すると、日本人のイデオロギー認識は大きく変化している。従来の保革イデオロギーの影響力は大きく低下し、だからこそ、ますます無党派層が鍵を握っている。そこで重要になるのは、従来の「自民党か、非自民党か」というアジェンダ設定ではなく、政治そのもののあり方を問い直す "脱政治" 的なメッセージだ。

政治家による "脱政治" 的なイメージ自体は、これまでも自民党の非主流派であった小泉純一郎元首相や、政治のアウトサイダーとして維新の会を生み出した橋下徹元大阪市長などによって、繰り返し生み出されてきた。しかし、SNS という新たなツールと自身のキャラクターによって、石丸氏はそれを再現することに成功しつつある。その意味で、SNS の効果はあくまでもツールに過ぎず、根本的には「革新」的なイメージそのものが躍進に寄与したと言える。

逆に言えば、「国民の声は、裏金議員や政治とカネの問題がある自民党政治の延命に手を貸す小池都政をリセットしてほしいというものだ」という蓮舫氏の考えも、政策論争に持ち込みたいという意向も、無党派層の求めるイメージとは乖離があった可能性が高い。

一方、既得権益へのチャレンジャーとみなされてきた維新の国政における勢いが停滞しているように、チャレンジャーは時間とともに自らのイメージを作り変える必要がある(*)。その意味で、石丸氏の "脱政治" 的なイメージが、これからも若者や無党派層から支持され、政党のような組織力を持ち得るかは、現時点では明らかではない。

(*)善教 将大『維新支持の分析 - ポピュリズムか,有権者の合理性か』有斐閣、2018年などを参照。

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✍🏻 著者
編集長 / 早稲田大学招聘講師
1989年東京都生まれ。2015年、起業した会社を東証一部上場企業に売却後、2020年に本誌立ち上げ。早稲田大学政治学研究科 修士課程修了(政治学)。日テレ系『DayDay.』火曜日コメンテーターの他、『スッキリ』(月曜日)、Abema TV『ABEMAヒルズ』、現代ビジネス、TBS系『サンデー・ジャポン』などでもニュース解説。関心領域は、メディアや政治思想、近代東アジアなど。
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