「女性活躍推進」は、安倍政権の看板政策の一つである。特に、「2020年」までに「指導的地位に占める女性の割合を30%程度」に上昇させるという具体的な数値目標は大きな目玉となっていた。しかし2020年6月25日、この目標達成年限は「30年までの可能な限り早期」に繰り延べされる見込みとなった。
日本のジェンダーギャップは国際的に見ても格差が大きい状態にある。世界経済フォーラムによる「Global Gender Gap Report 2020」では、過去最低の121位を記録し、特に「ジェンダー間の経済的参加度および機会」では115位、「政治的エンパワーメント」に至っては144位という結果となっており、社会的なリーダーシップやダイバーシティが求められる分野において著しく評価が低い。
一方、世界に目を向けると、近年では#MeTooから新型コロナウィルス感染拡大、Black Lives Matterに至るまで、ジェンダー平等にまつわる議論は盛んにおこなわれてきた。特にこれらの社会的な事象について、女性が非常に大きな役割を果たしてきたことは注目に値する。
#MeTooは、女性によるセクシュアル・ハラスメントや性暴力への抵抗に端を発し、ハリウッドでの告発やSNSを介して爆発的に拡散した。ニュージーランドや香港、ドイツなど女性が政治的リーダーを務める国々での新型コロナウィルス対策は大いに成果を上げて注目を集めた。また、Black Lives Matterは3人の黒人女性によって立ち上げられ、エスニシティやジェンダーを含めた人権問題を世界的に提起し続けている。
では、女性の政治的・経済的リーダーは世界的にどのような状況に置かれており、どのように眼差されているのだろうか。また、特に女性のリーダーシップに関わるジェンダー平等の達成に関して、どのような取り組みがおこなわれているのだろうか。
女性のリーダーはどこにどれだけいるのか
現状として、女性のリーダーはどういった分野でどれだけ活躍しているのだろうか。
もともと男性優位とされてきた分野で、女性がリーダーシップを発揮しつつある。例えば、2020年のガートナー社による調査で、企業のサプライチェーンの最高責任者のうち、17%を女性が占めており、前年の11%を大きく上回ったことが明らかとなった。
一方、同調査では2019年には28%あった副社長やシニアディレクターにおける女性の割合が、2020年には21%に減少していることも示されている。こうした割合の減少は、パンデミックに先立ち経済状況が悪化したことで、ジェンダー・インクルーシブな人事を任意だと考える組織が取り組みをやめたことが原因とされており、女性のトップポストへの道のりが脅かされる状況もある。
コンピューターサイエンスやSTEM領域での女性の少なさが、かねてから指摘されてきたテック業界では、実に56%もの女性が制度的な障壁、職場でのマイクロアグレッション、バイアスなどによってキャリアを中断している。
全米上位500社を総収入でランキングするFortune 500のうち、女性がCEOを務める企業は、最高記録を出した2020年でもわずか37社である。女性CEOの数は上昇傾向にこそあるものの、依然として数は少なく、白人以外のエスニシティともなればほとんどいなくなってしまう。
数少ないFortune500のCEOであるGAP社のソニア・シンガル氏(Benzeeful, CC BY-SA 4.0)
ジェンダー平等が進んでいることで知られる北欧を擁するヨーロッパですら、企業における女性の進出は必ずしも進んでいない。ヨーロッパの経済動向のベンチマークとされる、ストックス欧州600指数を構成する17カ国600社において、女性役員は全体の33%、経営幹部は全体の16%、そしてジェンダーバランスが取れた経営をおこなっていると評価された企業は全体の5%(30社)に過ぎない。
世界全体で見ても、賃金格差や管理職の割合の低さはもちろん、政治に目を向けても、女性議員(25%)や女性閣僚(21%)が全体に占める割合は低く、過去50年間で首相や大統領といった女性の政治指導者が誕生していない国も47%と半数近い。このように、女性のリーダーシップは経済的、政治的に依然として低い割合に抑えられている。
では、現在女性リーダーを務める人々はどのようにまなざされているのだろうか。
女性リーダーへのまなざし
女性リーダーが増えることは、単に多様性を増やすだけにとどまらず、実際に企業などにとって利益につながると考えられている。例えば、経営幹部のジェンダーやエスニシティの多様性が高い組織の方が利益が高く、長期的なバリューも発揮できることが、マッキンゼーの調査で指摘されている。端的に言えば、女性リーダーが経営に参画することは、企業にとってはプラスに働くのである。
しかし、投資家は企業におけるダイバーシティの拡大と利益の増大は両立できないと考えており、ダイバーシティの拡大が株主価値の最大化を妨げると見なされているという調査も複数発表されている。
具体的には、取締役会に女性が増えると企業の市場価値が下がる、企業の業績が低迷している時、株主は女性役員を支持しない、ヘッジファンドは高いレベルのCSRを掲げる企業をターゲットにする可能性が高い、といった傾向が指摘されている。ダイバーシティの拡大と利益の増大は両立されうるにもかかわらず、投資家の必ずしも正しくない認識によって、企業の取り組みが損なわれる可能性がある。