- 前編より続く
前編で見てきたように、Clubhouseはポール・デイヴィソンとローハン・セスという2人の創業者によって生み出された。FacebookやSnapchatが無名の若者によって生み出され、TikTokがベテラン起業家によるプロダクトだったならば、Clubhouseは後者に当たるだろう。
Clubhouseは、一夜にして大成功を収めたというイメージを持たれがちだが、2人のキャリアを見ると、決してその認識は正しくないことが伺える。
一体、世界的な大ヒットプロダクトをつくったのはどんな人物なのだろうか。
ポール・デイヴィソン
Clubhouseを開発・運営するAlpha Exploration社を創業したポール・デイヴィソンは、Pinterestにサービスを売却したシリアル・アントレプレナー(連続起業家)として知られる。
デイヴィソンは、1979年にカリフォルニア州サンディエゴで生まれた41歳だ。カリフォルニア随一のビーチシティとして知られる街で育ち、同州のスタンフォード大学に進学する。まさに「根元的に起業家」のようなキャリアを歩む人物と評されることもあるが、大学卒業後しばらくはエリート街道を歩んでいた。
1998年から2002年までスタンフォード大学でインダストリアル・エンジニアリングを学んだ後、彼が最初の就職先に選んだのは、世界的なコンサルティング企業のBain & Companyだった。ここでシニア・アソシエイトまで昇進した後、彼は2005年に母校のスタンフォード大学に戻り、MBAを取得する。
しかしデイヴィソンは、そこからコンサルティング業界や金融業界にいくのではなく、テック業界へと足を踏み入れ、起業家としての道を歩みはじめる。
2006年、Googleでのインターンからスタートアップへ
デイヴィソンが、テック業界とはじめて本格的な接点を持ったのはスタンフォード大学のMBA在学中だった。2006年6月から9月にかけて、Googleでビジネス・オペレーションの夏期インターンに参加した。
このインターンを通じて、テック業界への関心を高めたデイヴィソンは、2007年からMetaweb Technologiesというスタートアップ企業に参加する。
同社は、セマンティック・ウェブの構築を目指す企業で、Freebaseという製品を開発していた。セマンティックウェブとは、World Wide Web(WWW)を考案したティム・バーナーズ・リー氏によって1998年に提唱された技術で、情報に意味(セマンティック)を付与することで、コンピューターが自律的に情報を処理できるようになる技術だ。
たとえば「石田健」という文字列について、人間ならば「おそらく人名だろう」と判断できるが、コンピューターはこれを人名と認識することは難しい。そこで「石田健」に対して、この文字列が「creator」である、というメタデータを付与する。これによって、コンピューターが構造化されたデータを通じて、意味を理解できるようになる。
彼らの製品であるFreebaseは、情報のオープンなデータベースで、WikipediaやMusicBrainz(音楽の非営利データベース)、そして米・証券取引委員会のデータなどを統合して、映画や音楽、人物、場所など数百カテゴリの数百万のトピックについて、構造化データを提供していた。たとえば、哲学からヨーロッパの鉄道駅、食品成分の化学的性質まで、あらゆるトピックについて、世界中のユーザーがデータを更新・提供していた。
同社は、それ以前にレストランのオンライン予約を提供するOpenTable社でCEOを務めていた、トーマス・レイトンによって率いられていた。レイトンは現在、世界最大のクラウドソーシングサービスの1つであるUpworksでチェアマンを務めている。