2021年2月1日、ミャンマーで軍事クーデターが起こり、与党・国民民主連盟(NLD)の幹部やアウンサンスーチー国家顧問らが拘束された。
このクーデターは、ミャンマーに進出している日本企業にも大きな影響を与えている。2021年3月時点で、ミャンマー日本商工会議所に加入している日本企業は426社にのぼり、様々な業種に影響が出る可能性が指摘されている。「アジア最後のフロンティア」と呼ばるミャンマーは、2011年に民主主義政権への移管を実現した後、民主化の進展と経済開放政策によって「投資の安全性が担保された」として企業の進出が加速していた。
しかしながら、問題は情勢混乱による企業への影響だけではない。今回軍事クーデターを起こしたミャンマー国軍の資金源になっている企業と取引することで、日本企業が間接的であっても人権侵害に加担したり、不公正な経済活動に関与している可能性もあるのだ。
NGOなどが指摘した企業の中には、JCBや東芝、みずほ銀行や三井住友銀行など日本の大企業の名前も含まれる。具体的に指摘される問題について見ていこう。
日本企業、ミャンマー国軍系企業と取引
国連が2011年に定めた「ビジネスと人権に関する指導原則」では、企業に対して「自らの活動を通じて人権に負の影響を引き起こしたり、助長することを回避し、そのような影響が生じた場合にはこれに対処する」ことが求められている。
今回のクーデターに伴って、現在進行系で人権侵害がおこなわれていると指摘されるが、もし日本企業がミャンマー国軍に関連する企業あるいは国営企業などとビジネスをおこなっていた場合、その責任を果たす必要が出てくる。
2つの軍系企業
そして、日本企業がミャンマーでビジネスをおこなう際、人権に負の影響を引き起こす可能性がある。具体的には、軍系企業との取引だ。
ミャンマー国軍は、特権的な地位を享受する企業への投資・所有などを通じて、国家経済に大きな影響を有している。具体的には、貿易や天然資源、アルコール、タバコ、消費財などのセクターに渡り、国軍や軍事政権の資金源だと見なされている。その中心的な企業は、
- Myanma Economic Holdings Limited(MEHL、ミャンマー・エコノミック・ホールディングス)
- Myanmar Economic Corporation(MEC、ミャンマー・エコノミック・コーポレーション)
の2社だ。MEHLは銀行や貿易、運輸、建設、鉱業から観光、農業、タバコ、食品、飲料に至るまで、ミャンマー経済の多岐にわたる業種で利益を得ている。またMECは鉱業、製造、電気通信にわたる子会社を有するホールディングス企業であり、天然資源にも権限を持っている。
3月25日には、米・財務省外国資産管理室(OFAC)がこの2社に対して制裁を課した。同じく英国も同日および4月1日に制裁を課している。両国は、この2社が軍事政権にとって「金融の不可欠な生命線」であると指摘しており、制裁を課すことで国軍や軍事政権に打撃を与え、ミャンマーが民主政権に復帰することを意図している。
軍関係者によって所有されるコングロマリット
2019年の国連報告書によれば、この2社はミャンマーの巨大コングロマリットであり、ミン・アウン・フライン司令官らの国軍幹部などによって所有されている。
2社は106の子会社・関連企業や27の密接な企業などを通じて、「国際人権法および国際人道法に違反する幅広い範囲において、ミャンマー国軍の活動を財政的に支援している」。MEHLは、国軍や軍関係の現役職員および元職員が株主の大多数を占めており、軍の年金基金も運用している。
ミャンマーにおいて、この2社との関係を断つのは容易ではない。軍系企業との関係が発覚しても、社名や業種を変えて経営を続けたり、収益の流れが不透明で関連企業がわかりづらいなど、ミャンマー国内の8割程度の企業が軍と何らかの関係を持っていると推測され、ミャンマーに進出する外国企業のほとんどは、軍系企業と関係するリスクがあると指摘される。
複数の日本企業が関係
こうした背景の中、日本企業もまた軍系企業と無関係ではない。1991年に設立されたNGOのビルマキャンペーンUKは、国軍と関連する企業のリストを公開しており、ここには日本企業も含まれる。具体的には以下の企業だ。