2020年3月、オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が、新疆ウイグル自治区に暮らすウイグル族への強制労働に関する報告書を発表した。本誌では、2018年からウイグルに関連する問題を継続的にお伝えしてきたが、同報告書に日本企業のサプライチェーンが含まれていたことは、国内でも大きな話題となった。
同年7月には、香港を拠点とする世界最大の織物シャツメーカーであるエスケル・グループ(溢達集團)の子会社である昌吉・エスケル・テキスタイル(Changji Esquel Textile)社が、米・商務省によってエンティティリスト(Entity List)に含まれたことを受け、同社の取引先に日本企業が含まれていることを本誌が明らかにした。
そして2021年4月、ASPIの報告書に名前の上がっていた日本企業14社への質問・調査結果を国際人権団体ヒューマンライツ・ナウと日本ウイグル協会が発表した。
このように既に名前の上がっている14社を中心として、日本企業もウイグルで生じている人権侵害とは無縁ではない。ミャンマーとともに、国際社会は人権侵害に関与・加担している日本企業に厳しい目を向けている。
新疆ウイグル自治区の問題とは
そもそも、新疆ウイグル自治区で起きている人権侵害とは何だろうか?
中国・新疆ウイグル自治区には「再教育施設」と呼ばれる収容施設があり、拷問や強制労働、性的虐待が告発されている。これを問題視していたEU・英国・米国・カナダは今年3月、協調して中国への制裁を課した。一方で日本は、制裁には慎重姿勢を崩さず「中国側と意思疎通を続けながら、状況の改善に向けた責任ある行動を強く促していく」方針だ。
こうした中で、注目を集めているのは企業の対応だ。グローバル企業をはじめとして、多くの企業が中国にサプライチェーンや拠点を有しているが、その中には新疆ウイグル自治区の労働者やサプライヤーとの関与が疑われるケースもあり、人権侵害に間接的であっても関与・加担している懸念が生じている。
そのため米国は2020年7月、サプライチェーンが強制労働や人権侵害に関与していないかを精査する諮問機関を立ち上げるなど、企業を監視する動きを強めている。英国でも、原材料の調達に際して、注意義務を行った企業に罰金が課せられるなど、各国政府の取り組みは加速している。
各国政府の動きを受けて、企業の取り組みも進んでいる。例えばアパレル大手のH&Mヘネス・アンド・マウリッツ(H&M HENNES & MAURITZ、以下H&M)は、「信頼性の高いデューデリジェンスを実施することが困難になっているため」、新疆ウイグル自治区に拠点を置く全ての縫製工場との取引・調達の停止を明らかにしている。この決定は、中国国内で大きな反発を浴びて、H&M製品へのボイコットが呼びかけられた。
日本企業の名前と対応
しかし各国企業の動きに比して、日本企業の対応は不十分だと指摘されている。
11+3社の日本企業
APSIの報告書が公開された後、日本ウイグル協会は名前の上がった日本企業に公開質問状を送付した。具体的には、以下11社に対して質問状が送付された。
- 日立製作所
- ジャパンディスプレイ
- 三菱電機
- ミツミ電機
- 任天堂
- パナソニック
- ソニー
- TDK
- 東芝
- ユニクロ(ファーストリテイリング)
- シャープ
11社のうちパナソニックを除く10社は回答をおこない、国際NGO団体ヒューマンライツナウは2020年8月に「質問状を受領した企業が回答をしている点は、ステークホルダーとのダイアログを尊重する姿勢として評価できる」と述べるものの、それらはいずれも不十分であったと指摘される。
具体的には「本件に対する回答内容は、特に以下の点について指導原則の観点から不十分であり、各社の人権方針や行動規範を十分に遵守したものではない」と述べ、以下のような問題点を上げる。
- 報告書で言及された内容に対する回答は何らなく、一般的な自社の人権方針、調達方針について回答したのみ
- 自社のサプライチェーン上の企業すべての人権侵害に対する関与の有無について調査することが必要で、直接の取引先が強制労働に関与していないというだけでは、強制労働を利用していないと到底言えないことは明白
- 労働組合やあるいは第三者機関による客観的な調査によって、人権リスクの有無を特定することが求められるが、調査の実施を報告したいずれの企業も、いかなる調査を実施したのか、その詳細は全く明らかにしていない
加えて今年4月、新たにヒューマンライツ・ナウと日本ウイグル協会は、上記11社に下記3社を加えた14社について「該当企業との取引関係を明らかにし、説明責任を果たすべき」だと述べている。
- 京セラ三菱電機
- 良品計画(無印良品)
- しまむら
日本企業の対応と評価
今年4月の報告書には、各企業の対応と評価も示された。
第三者による監査などを実施した日立製作所・ソニー・TDK・東芝の4企業については、前向きな取り組みに一定の評価が与えられつつも「中国共産党政権下で何処まで透明性のある監査ができたのか疑問は残る」とされる。調査に加えて、取引停止の可能性も示唆した京セラについては「検討結果に期待したい」と述べられる。
一方、監査を実施しつつ自社サイトから削除した「新疆綿」を楽天やヤフーショッピングで販売する良品計画(無印良品)については「不誠実な対応」だと述べている。ちなみに筆者も、無印良品の日本語および英語版サイトで「新疆」や「XINJIANG COTTON」などの文言が削除されているものの、中国版サイトでは「新疆綿」が販売されていることを今年3月に指摘している。
報告書が指摘するサプライヤーとの取引を否定した三菱電機・ミツミ電機・シャープ・ユニクロ(ファーストリテイリング)の4社は、それぞれ対応の不十分さや調査への疑義が指摘されている。自己評価のような調査を実施した任天堂・ジャパンディスプレイについては「評価は難しい」と述べられ、同じくしまむらは「調査方法に問題がある」とされた。
そして最後に、完全無視を決め込んだパナソニックについては「絶望的な思いがする」と強い批判が向けられている。
このようにASPIの調査で言及された日本企業については、総じて対応が批判されている状況だ。
それ以外の日本企業の動き
また、同報告書に言及されていない日本企業や自治体などでも注目すべき動きがある。具体的には、カゴメや三陽商会、ホンダ、今治市などだ。