コロナ禍を経て、人々の衛生意識が世界的に高まった。日本国内では「新しい生活様式」の実践として、マスク着用や手洗い、換気、手指の消毒などが励行されている。こうした衛生意識の高まりは、コロナ禍以前と比べて手洗いの頻度を向上させるなど、実際的な行動の変化をもたらしている。
こうした中、新たな注目を集めているのがウォシュレットだ。業界大手のTOTOは、4月29日までに発表した連結決算で、北米市場での販売台数が前期と比べ約1.8倍に増加した。同じく業界大手のLIXILも、北米市場でのウォーターテクノロジー事業の旺盛な需要継続を、4月30日の決算説明会で報告した。
日本では総世帯で73%の普及率を誇るウォシュレットだが、アメリカでは2020年時点で10%未満、中国では2019年時点で約5%と、依然として一般的とは言い難い。
では、コロナ禍以降、北米圏でウォシュレットへの関心が高まっているのはどのような文脈だろうか。また、ウォシュレットは実際に衛生的なのだろうか。
ウォシュレットは日本でどう普及したのか
まずはウォシュレットがどう普及したのかを概観しよう。
ウォシュレットという呼称は一般化して定着しているが、そもそも、この名称はTOTOの登録商標である。例えばLIXIL(開発当時はINAX)による登録商標はシャワートイレであり、これらの商品一般を指す場合には「温水洗浄便座」と呼ぶのが正しい。
また、ウォシュレットの元となるアイディアは、必ずしも日本の発明ではない。トイレメーカー各社が所属する一般社団法人日本レストルーム工業会によると、1964年に伊奈製陶(現 LIXIL)がスイスから、東洋陶器(現 TOTO)がアメリカから、温水洗浄便座を輸入販売開始したのが日本での普及の始まりだ。1967年には、INAXが国産初の温水洗浄便座一体型便器「サニタリーナ61」を発売している。ただし、当時は水温調節機能が不完全で、小説家の遠藤周作が『狐狸庵閑話』内で酷評するなど、使い心地の良いものではなかった。
日本メーカーによる改良
日本メーカーによる発明は、トイレ機能と分かれていたビデ(お尻を洗うことを目的としたシンクの一種)を一体化して電動式にし、水温調節機能を設けた点だ。1980年、TOTOが「おしりだって洗って欲しい」というキャッチフレーズとともにウォシュレットを発売した。その後、INAXは「シャワートイレ」という名称をプッシュし始め、1987年には松下電工(現 パナソニック)の参入など、電機メーカーも交えた開発競争が進んでいった。
1998年までに約1000万個のウォシュレットが販売され、2000年までに、レストラン、ショッピングセンター、学校などの公共施設で一般的になっていった。
北米圏での関心の高まり
北米圏では、マドンナやウィル・スミス、レオナルド・ディカプリオなどのセレブが購入・評価したことで話題を呼んだものの、ウォシュレットの関心がより一般的に高まったのはコロナ禍以降だ。
TOTOの関係者は朝日新聞の取材に対し、2020年3月のパニックによるトイレットペーパー不足がウォシュレットの関心を高めたと見ている。トイレットペーパーの節約によって環境保護につながる、という主張もあるほどだ。
また、The New York Times社が所有する商品レビューサイト「Wirecutter」やCNNの記事でも、環境保護や節約に加えて衛生面を強調したウォシュレットのレビューが掲載されるなど、注目の高まりがうかがえる。
このように、コロナ禍以降、トイレットペーパー不足を機に北米で関心を高めたウォシュレットは、衛生面でもそのメリットが強調されている。