Joe Biden(White House, CC BY 3.0) , Illustration by The HEADLINE

国際最低法人税率とは何か?

公開日 2021年05月21日 13:49,

更新日 2023年09月13日 14:40,

有料記事 / 政治

4月7日、G20財務相会議で、「法人税の引き下げ競争を止めるための国際的な最低法人税率の導入」について、2021年半ばの合意を目指す共同声明が採択された。

先んじて米バイデン大統領は3月31日、総額約2兆ドルを超える公共投資の計画である「米国雇用計画」を発表しており、その財源として法人税率を21%から28%に引き上げるなど大幅な法人税増税を掲げていた。この声明は、米国の法人税増税計画の動きに呼応するかたちで採択されたもので、その採択内容の通り、法人税について国際的な最低税率を設けることを目指すとしている。

法人税をめぐっては、1990年代以降、自国に企業を誘致するための税率引き下げ競争が続き、各国の財源に深刻な影響を与えてきたまた、国家間の税制の違いやタックスヘイブンを利用して多国籍企業が利益を移転し、課税を逃れていることも問題となっている。

法人税の国際最低税率は、この問題に対処するための経済活性化策で、世界共通の最低税率を導入するものだ。

この税制は具体的にどのような内容になるのだろうか?企業の税逃れはどの程度問題となっていて、各国の政府や企業は、この税制に対してどのような反応を見せているのだろうか?

国際最低法人税率とは

国際最低法人税率とは、特定の国の企業が自国外で利益を上げており、その自国外の国の法人税率が国際最低法人税率より低かった場合、企業は国際最低法人税率までの差分額を税金として支払わなければならないという制度だ。

つまり、A国に本社を置く企業が、法人税率5%のB国で売上を計上していて、国際最低税率が15%に設定されている場合、A国はB国の税率である5%と国際最低税率である15%の差である10%の税金を、企業から徴収できることになる

こうすることで、ある企業が税逃れのスキームを使って特定の国でわずかな法人税しか支払っていない場合にも、自国政府は合意された最低税率まで税金を「上乗せ」することができる。そのため、タックスヘイブンに利益を移すメリットがなくなるという仕組みだ。また、各国は低税率国に協定に参加させるためのインセンティブとして、最低税率を遵守していない国で得た利益に対する特定の税控除を認めないことなどを提案している

なぜ国際最低法人税率が必要とされているのか?

国際最低法人税率の目的は、法人税率の引き下げ競争を止めることだ。

過去数十年にわたり、アイルランドやスイスをはじめとする多くの国が、多国籍企業の投資を呼び込むために、法人税率を下げることを目的とした税制を導入し、他の国も競争力を維持するためこれに追随してきた。実際に世界の平均法人税率は1985年の49%から2019年には23%にまで低下し、過去35年間で半分以下なっている

また、多国籍企業の多くはこのような国際的な税制のギャップを利用して、知的財産権を中心とした資産を低税率の国で設立した子会社に移転することで、課税を逃れる手法を用いている

このような状況が、各国の財政に与える影響は深刻だ。以下に示すとおり、問題の大きさを示すデータも報告されている。

  • IMFの推計によると、タックスヘイブンの利用によって、各国政府は毎年5,000億ドルから6,000億ドルの法人税収入失っている
  • 独立系の調査団体であるTax Justice Networkによると、米国の多国籍企業の場合、タックスヘイブンへの利益移転は、1990年代には総利益の5〜10%程度と推定されていたが、2010年代には約30%にまで増加している。これは年間数兆ドル規模の金額が課税されずに移転されていることを示している 。
  • 連邦政府の税制問題に取り組む非営利のシンクタンクであるInstitute on Taxation and Economic Policyによると、NikeやFedExを含む少なくとも55の米国の大企業は、2020年に利益を上げていたにもかかわらず、米国の連邦所得税を全く支払っていない
  • 経済学者のガブリエル・ズックマンによると、2020年における米国IT大企業各社の法人実効税率は下記の通り(米国の連邦法人税率は21%)
    - Amazon:11.8%
    - Apple:14.4%
    - Alphabet:16.2%
    -Facebook:12.2%

独立系の調査団体であるTax Justice Networkのチーフであるアレックス・コブハムは、上記の現状を受けて、グローバル企業の悪質な税逃れは「第一級の世界的な経済問題」であると指摘する

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✍🏻 著者
シニア・エディター
早稲田大学政治経済学部卒業後、株式会社マイナースタジオの立ち上げに参画し、同社を売却。その後、The HEADLINEの立ち上げに従事。関心領域はテックと倫理、政治思想、東南アジアの政治経済。
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