ConvertKit's Creator Network dashboard(ConvertKit, Unsplash) , Illustration by The HEADLINE

クリエイターエコノミーとは何か?(3)見えてきた功罪

公開日 2021年06月21日 18:14,

更新日 2023年09月13日 13:50,

有料記事 / テクノロジー

-(2)より続く

ここまでクリエイターエコノミーの概要やビジネスモデル、多角化するマネタイズ手段について見てきた。最後に、その懸念を見た後、可能性や未来への示唆について考えていく。

クリエイターエコノミーの懸念

クリエイターエコノミーについては、クリエイター間の格差やカルト化が懸念されている。

クリエイター間の格差

クリエイターエコノミーという概念を生み出した投資家リー・ジン氏は、クリエイターにおける中産階級の不在と格差の拡大を問題視して以下のように述べる

いまのクリエイターの状況は、トップに富が集中する経済によく似ている。Patreonでは、2017年に連邦最低賃金の月額1,160ドルに達したクリエイターはわずか2%だった。Spotifyでは、フルタイムの最低賃金労働者の年間収入1万5,080ドルを達成するには、年間350万再生を必要とするため、大半のミュージシャンは、ツアーや商品で収入を補っている。

ジン氏は、クリエイターに中産階級が生まれないことは、サービス提供者にとっても問題だと指摘する。

彼女は「プラットフォームは、誰もが成長して成功する機会を提供できる時に繁栄する。アメリカンドリームが単なる夢に終わった時、その未来は不安定になる」と述べ、その例として2015年に流行した動画アプリVineの衰退を挙げる。一時は月間アクティブユーザーが2億人を突破した同サービスだったが、InstagramやYouTubeの収益機会が増加したことで、2017年にサービスが終了した

実際、大半のクリエイターは十分な収入を得ることができていない初回で述べたように、世界の5000万人のクリエイターのうちフルタイムはわずか200万人であり、約4,670万人はアマチュアクリエイターであり、言い換えれば全体の4%しかクリエイターに専念できていない。

YouTuberの97.5%は、米国の貧困ラインである1万2,140ドルに収益が達していないし、Patreonのクリエイターで、米国における月の最低賃金である1,160ドルに収益が達しているのは、わずか2%だと発表されている

飽和市場と有名人の参入

市場の飽和と有名人の参入によって、状況はますます悪化している。

パンデミックによって壊滅的な経済的打撃を被ったことから、OnlyFansにヌードやランジェリーの写真を投稿する女性は増加した。The New York Times 紙が伝えるように、サバンナ・ベナビデス氏のように2020年7月だけで6万4,000ドルを稼いだクリエイターもいるが、レクシー・アイゼンバーガー氏のように3ヶ月で約500ドルしか稼げなかったクリエイターもいる。

結局のところ「最も成功しているクリエーターは、多くの場合、すでに大規模なソーシャルメディアのフォロワーを持っているモデルやポルノスター、著名人」であり、「彼らは他のプラットフォームからフォロワーをOnlyFansに誘導して、月額料金を支払うユーザーに独占コンテンツを提供」しているのだ。

加えて、いまやOnlyFans内の競争相手は、クリエイターやポルノスターだけではない。人気アーティストのCardi BやDJ Khaled、人気女優のベラ・ソーンもサービスに参加しており、アマチュアがプロと戦うことはますます難しくなっている。「有名人は、ポルノ作品をやらなかったとしても、OnlyFansでサブスクリプションのフォロワーを増やしている」のだ

カルト化

またクリエイターのファンや顧客がカルト化する問題もある。投資家ジョシュ・コンスティーン氏は、以下のように述べる

インフルエンサーは、ファンを望んでいるのではなく、カルトを望んでいる。 彼らは、栄光の大君主に利益をもたらすため、お気に入りの土地すらも手放す苦痛に耐えれるほど、命令に喜んで従う忠誠者を望んでいる。「カルト」という用語は少し無神経かもしれないが、コミュニティがカリスマ的なリーダーに与える執拗な献身を適切に説明している。彼らは、その引き換えに帰属意識を分配している。

象徴的な存在は、2020年5月に注目された「Mother Hen」というクリエイターだ。

彼女のファンは「Stepchickens」と呼ばれ、青色のセルフィーをアイコンにすることで連帯感を高めている。「Mother Hen」ことメリッサ・オン氏は、Yahoo!とGoogleで働いた後、フルタイムのクリエイターとなった。オン氏は自らをカルトだと自称しており、「“他人に危害を与えてはならない”というメッセージを発信する一方で、他のインフルエンサーの動画に大量のネガティブメッセージを投稿するようフォロワーに要請」したこともある

このカルト文化は、TikTokでよく知られるダンス・スターの文化とは対照的で、「予想だにしないインフルエンサーを持ち上げ、その成長の共犯者であることを楽しむ」ことが特徴だ。

カルト化するクリエイターは、資本主義においても力を持ちはじめた。GameStop株の高騰を主導した掲示板Redditの主で、投資家キース・ギルはカルト的な信仰を得ており、テスラ社のイーロン・マスクCEOはDogecoinという不可解な暗号通貨を通じて、教祖の座に君臨している。カルト資本主義は、いまや影響力を「現金化」するツールを多数持っているのだ。

母親たちもまた、インフルエンサーたちによってカルト構造に組み込まれている。

20世紀半ば以来、主婦の「退屈と憂鬱」を狙ってマルチ商法が勃興したが、2000年代からはブログやInstagramに舞台を移して、仕事を辞めて友人とのつながりが薄くなった母親がターゲットになっている。彼女たちは「マム・ボス(Mom Boss)」と呼ばれる、オンラインで自らのビジネスを展開する母親になることを奨励され、インフルエンサーによって「スーパーママになる方法」を教わっている。

興味深いのは、これがポストフェミニズムにおける「女性のエンパワーメント」のように扱われている点だ。女性たちは「母親としての仕事」だけでなく経済的成功も求められ、それが「女性が輝くための条件」であるかのように語られる。このカルトでは、TikTokのクリエイターやRedditの投資家と異なり、女性たちの孤独や経済的苦境が、信仰の原動力になっている点で一層たちが悪い。(*1)

日本のオンラインサロンをカルト的だと指摘する向きもあるが、こうした問題は日本だけに限らないということだ。

(*1)企業のフェミニズムの失敗については、上記Voxの記事内でも触れられているこの記事が興味深い。

クリエイターエコノミーの未来

では、こうした懸念がありながらも、クリエイターエコノミーはなぜ大きな変化として注目されているのだろうか。未来に向けた示唆を考えていきたい。

インフルエンサーからクリエイターに

前述したカルト化とも関係してくるが、クリエイターエコノミーは単に「影響力のある個人が収益化に成功しはじめた」という話ではない初回でも述べたように、クリエイターは良質なコミュニティを通じて収益化を実現させている。

キム・カーダシアンやセレーナ・ゴメスが綺羅びやかなライフスタイルを売っているのとは異なり、コミュニティの参加者はクリエイターとの親密なコミュニケーションを楽しんでいる。ファン自身がクリエイターを「成長させている」と感じたり、コンテンツの拡散に「奉仕する」ことも、クリエイターエコノミーの特徴だ。

ポルノコンテンツの閲覧が目的に思えるOnlyFansですら、ファンはクリエイターとのコミュニケーションを楽しんでいる。クリエイターのモニカ・ハルト氏は、ランジェリーの画像を投稿するだけでなく、毎朝40〜50個のメッセージに2時間かけて応答することで、年間10万ドル以上を稼ぐ。またポルノスターのダニー・ハーウッド氏は、The New York Times 紙の取材に対して「彼らは、雑誌やソーシャルメディアで見た人と知り合う機会を望んでいる。私は、ファンにとってのオンライン・ガールフレンドのような存在だ」と述べる

ファンや顧客は、コンテンツを見るだけの一方向的な関係性ではなく、実際にクリエイターと交流をする双方向的な関係性に価値を感じている。リー・ジン氏によれば、コミュニティの価値は「有意義な会話と互いのつながり、そしてファンが親近感を持っているクリエイターとのより深いエンゲージメント」にあるという。

ライフスタイルからビジネス領域に

もう1つのポイントは、この経済圏がライフスタイルからビジネスの領域に浸透していることだ。これまでのインフルエンサー文化は、主にファッションやコスメ、食やカルチャーなどライフスタイルに関連する領域で盛り上がりを見せてきた。しかし、クリエイターエコノミーはビジネス領域においても存在感を見せている。

TikTokやOnlyFansでは、エンターテイメントやライフスタイル寄りのクリエイターが注目されるが、TeachableやSubstackでは、株式投資やキャリアアップ、スモールビジネスの始め方を教えるクリエイターが脚光を浴びている。

ギグエコノミーの下でフリーランサーは、Upworkやfiverrなどのサービスを通じて仕事を見つけていた。しかし、サービス内で単価下落の圧力に直面していることから、彼らは新たな機会を模索しはじめた。そこでクリエイターは自ら「オーディエンス・キュレーション」(*2)をおこない、差別化したサービスを提供しようとしている。

もちろん、そこにもトップクリエイターばかりに注目が集まったり、怪しげなクリエイターの台頭を排除できないという問題がある。従来から、ほとんど実績がないビジネスパーソンが株式投資を教える詐欺まがいのビジネスなどは存在していたが、クリエイターエコノミーでますます加速するだろう。

とはいえ重要なことは、この変化が不可逆的であるという点だ。従来、ビジネスパーソンは企業内部で実績をつくったり売上を伸ばすことが最も重要であり、(一部のクリエイティブ職以外は)自らポートフォリオをつくったり、知識や思考、スキルを外部に公開することはほとんどなかった。しかし今後は、自らの能力を様々なコンテンツによって表現するビジネス型のクリエイターが増えていくだろう

コンテンツの制作や流通は、科学者やエンジニア、ITや金融、コンサルティング企業などで働く人々(いわゆるクリエイティブ・クラス)にとって必須スキルになっていくだろう。Linkedinの日本代表・村上臣氏が述べるように、すべてのマネージャーがYouTuberになる時代がやってくるかもしれない。

(*2) クリエイターが、ファンや顧客を集めてくること。「クリエイターエコノミーとは何か?(1)概要とビジネスモデル」で説明。

新たなサービスの台頭

最後に、クリエイターエコノミーの加速によって新たな企業の台頭が予想される。

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✍🏻 著者
編集長 / 早稲田大学招聘講師
1989年東京都生まれ。2015年、起業した会社を東証一部上場企業に売却後、2020年に本誌立ち上げ。早稲田大学政治学研究科 修士課程修了(政治学)。日テレ系『DayDay.』火曜日コメンテーターの他、『スッキリ』(月曜日)、Abema TV『ABEMAヒルズ』、現代ビジネス、TBS系『サンデー・ジャポン』などでもニュース解説。関心領域は、メディアや政治思想、近代東アジアなど。
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