29日、Twitter社の創業者であるジャック・ドーシー最高経営責任者(CEO)が退任を発表した。任期満了となる2022年5月には、取締役も退任予定だ。
ドーシー氏は、Twitterを創業した2006年からCEOを務めていたが、2008年に解任されている。その間には、2010年に決済企業Squareを創業して急成長させており、現在の時価総額は960億ドル(約11兆円)にものぼる。
一方、2013年に上場したTwitter社は、同時期にスタートしたFacebookに比べて株価および収益性の伸び悩みが続き、2015年にはドーシー氏を再びCEOとして迎え入れていた。
ドーシー氏の後任は、パラグ・アグラワル最高技術責任者(CTO)が務める。
重要な理由
ドーシー氏の辞任によって、焦点となるのはTwitter社の業績だ。
これまでTwitter社は機能開発の遅さや、広告に依存した収益、FacebookやInstagramなどの競合に比べたユーザー数の鈍化が度々問題視されてきた。しかし2020年後半からは、
- Instagramのストーリー機能を模倣したFleet
- 音声SNSのClubhouseに対抗した新機能Space
- サブスクサービスであるTwitter BlueやSuper Follow
- 投げ銭機能のTip Jar
など、多岐にわたる機能を投下してきた。極め付けは、2023年末までに
- デイリーアクティブユーザーを3億1500万人にまで伸ばし
- 年間売上高を2020年に比べて約2倍となる75億ドル(約8,000億円)以上に引き上げる
と宣言したことだ。2020年前半には、Squareとの兼任を問題視するアクティビストのエリオットマネジメントが同氏の解任を求めていたが、この矢継ぎ早の機能開発と高い成長目標によって、同社の将来性に期待が高まっていた。
今回の辞任はその最中の出来事であり、後任となるパラグ・アグラワルCTOが同社を成長軌道に乗せられるかが注目される。
また、ドーシー氏がSquareの経営に専念することで、ますます暗号資産領域に注力する可能性が高いこともポイントだ。
ドーシー氏は現在、テスラのイーロン・マスクCEO、Ark Investのキャシー・ウッドCEOと並んで、Bitcoinのイベント「The B Word」に登壇するなど、業界に強い影響力を持つ人物として知られている。
Twitterでも投げ銭機能を通じてBitcoinが送れるようになっているが、Squareはより深い関わりを持っている。2018年、Squareのアプリ「CashApp」はいち早くBitcoin取引を可能としており、最近でもBitcoinのマイニング(採掘)事業への参入やハードウェア・ウォレットの開発も明かしている。
ドーシー氏の辞任を受けて、Twitterの株価は終値ベースで2.7%安となっている一方、Squareの株価は上昇した。
背景
退任の背景には、Twitter社の成長の遅さとソーシャルメディア企業への風当たりの強さがある。
前述した2020年2月の退任要求は、両者の和解によって収束したものの、同氏自身がTwitter社のイノベーションの遅さなどを認めている。ドーシー氏が退任に併せて公開したメモでも「創業者主導の企業にはかなりの限界があり、一点の曇りも無いようにしたい」と触れられている。
新たにCEOに就任するアグラワルCTOは、広告のターゲティングやTwitterのタイムラインにアルゴリズムを導入するプロジェクトを主導した人物だ。Twitterは長らく時系列でコンテンツを表示してきたが、いち早くアルゴリズムを導入したFacebookやInstagramが収益を伸ばしていることから、同社の対応の遅さに批判が集まっていた。
アグラワルCTOのトップ就任によって、製品開発のスピードが向上し、収益化に向けた取り組みの加速が期待されている。
また、2018年のFacebook(Meta)による個人情報の不正流用を契機として、ソーシャルメディア企業への批判が強まっていることも、ドーシー氏の退任を後押ししたという見方もある。
Twitter社も、フェイクニュースの横行を非難する米議会の公聴会で複数回にわたって追求を受けている他、2021年2月にドナルド・トランプ前大統領のアカウントを停止した際には、共和党保守派から「行き過ぎた検閲だ」と批判が強まった。
前述のメモでも、今回の辞任は「私の決断であり、私自身の問題だ」として、同社の経営をめぐる度重なる批判に辟易していることが示唆されている。