今月6日、米国政府は来年2月に開催される北京冬季オリンピック・パラリンピック大会に外交団を派遣しない、いわゆる外交的ボイコットを発表した。
先月バイデン大統領は、新疆ウイグル自治区におけるジェノサイドをはじめとした中国の人権問題を理由としたボイコットの検討を表明しており、これが正式に決定された形だ。なお、米国選手団は通常通り派遣する予定となっており、政府は全面的な支援も約束している。
重要な理由
今回の外交的ボイコットによって、米中関係はさらなる緊張の高まりが予測されている。
米中両国は以前から、中国国内の人権問題をめぐり対立を深めてきた。米国政府は、トランプ政権時に新疆ウイグル自治区における弾圧を「ジェノサイド」と認定し、今年3月にはバイデン政権によって中国・共産党幹部に対する経済制裁も実施されている。
一方で中国政府は、人権問題を否定しつつ、米国などによる批判を「内政干渉」として反発している。今回のボイコットについて中国・外務省の趙立堅報道官は「スポーツの政治化と『外交的ボイコット』の誇大宣伝をやめるべき」だと述べ、米国への「断固たる対抗策」を警告している。
また今回の決定は、各国の同大会をめぐる決定に影響を与える意味でも注目される。岸田首相は「適切な時期に、国益の観点から自ら判断する」と述べて、現時点での対応を明らかにしていない。またウイグル自治区をめぐる経済制裁で米国と足並みを揃えたEUは、ボイコットへの対応について決めかねている状況だ。
今回のボイコットは、ソ連のアフガニスタン侵攻に対する抗議によって1980年のモスクワ五輪で実施されたボイコットとは異なっており、選手団を派遣する「外交的ボイコット」に留まっている。しかし中国側は強く反発しており、各国は米中両国の間で難しい対応を迫られている状況だ。
背景
今回の背景には、中国の人権問題をめぐる国際的な批判の高まりがある。同国の人権状況については、新疆ウイグル自治区だけでなくチベット問題や香港における「一国二制度」の破壊、表現の自由に対する幅広い規制など、数多くの懸念がある。また台湾と中国の緊張の高まりを背景として、海外で逮捕された台湾人が中国に送還されるなど、新たな問題も提起されている状況だ。
米中の緊張関係を受けて、11月には米中首脳会談が開催され、バイデン大統領と習近平国家主席が両国による協力の重要性を確認した。国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、異例となる米中両国による共同声明も出され、気候変動分野での協力姿勢もアピールされた。
しかし同月末には中国の著名テニス選手である彭帥氏が、中国共産党幹部からの性的暴行事件を告発。告発した彭帥氏の安否をめぐって、中国政府への批判と人権問題への憂慮が高まったことで、ボイコットを後押しさせる要因となった。