Shinzo Abe(Kantei, CC BY 4.0) , Illustration by The HEADLINE

「こども庁」は、なぜ「こども家庭庁」に改名されようとしているのか?

公開日 2021年12月22日 17:54,

更新日 2023年09月13日 11:27,

有料記事 / 国内

今月15日、子ども政策の司令塔として2023年度に設立が予定されている「こども庁」の名称について、「こども家庭庁」へと変更する提案が自民党会合で提出された。翌週21日には、名称を含めた同庁の基本方針が閣議決定されており、同庁の名称がこども家庭庁となる可能性は高まっている。

なぜ、自民党は同庁の名称変更を提案したのだろうか?今までの議論の経緯や、改名の理由を見ていく。

こども家庭庁設立の経緯

こども家庭庁は、少子化対策や子育て支援の司令塔として設立が決まった

これまで、子ども政策は厚生労働省や文部科学省、内閣府など複数省庁にまたがって進められてきた。しかし、こうした縦割り行政ではスムーズで一体感のある支援ができない課題があり、子どもに関する政策の実施を一本化する狙いで同庁が設立された。デジタル庁と並んで菅政権の目玉政策であり、2022年度の設立が目指されていたが、議論が停滞したことで1年先送りとなった。

21日に閣議決定された基本方針には「『こども家庭庁』に一本化することにより、政府の子供政策を一元的に推進する」と明記されており、児童虐待問題や子育て支援について各省庁の政策などを集約して、年齢による支援の切れ目を生じさせない対応が目指される見込みだ。さらに文部科学省と共同で方針を策定する、実質的な幼保一元化(幼稚園と保育園、それぞれの政策について一元化を目指すこと)進めていく計画となっている。

その他にも妊産婦の自殺問題やひとり親の貧困問題、性犯罪者が子どもに関わる現場で働くことを制限する「日本版DBS」の導入など、子どもに関する問題全般がこども家庭庁で取り組まれていく予定となっている。

名称に関する議論

今回、同庁の名称変更が話題を集めているのは、そこにイデオロギー的な背景があるからだ。

以前提案されていた「こども庁」という名称は、当初の名称であった「こども家庭庁」から一度変更されたものだった。この変更は、自民党議連が今年3月に開催した子ども行政に関する勉強会において、虐待サバイバーであり No More Abuse Tokyo の代表を務める風間暁氏が「『家庭』という言葉を抜いて『こども庁』にしてほしい」と訴えたことで実現した経緯がある。

虐待を受けている子どもにとって、家庭とは「毎日生きることに必死な戦場を指す言葉」であり、家庭は温かい場所でなければいけないという固定観念とのギャップに苦しむ人がいることを考慮した結果の改名だと説明されていた。

ところが、今月15日に提案された修正案では再び「こども庁」から「こども家庭庁」へと名称変更され、21日に閣議決定された。この変更について自民党・加藤勝信議員が「子どもは家庭を基盤に成長する。家庭の子育てを支えることは子どもの健やかな成長を保障するのに不可欠」と述べるなど、改めて「家庭」の重要性が強調された形だ。

また自民党の保守派を代表し、過去にはLGBTQ+に対して差別的な発言をおこなった山谷えり子元拉致問題担当相も「家庭的なつながりのなかで子どもは育っていく」と述べて、肯定的な姿勢を見せた。さらに自民党の保守派議員だけでなく、公明党や旧民主党の議員も「家庭」を含めた名称変更を支持したとされる。

当初「こども庁」へ改名を訴えた風間氏は、今回の再改名について「失望した」と述べ、伝統的家族観を重視する保守派への配慮であるならば、あまりに横暴だと批判している。

背景にある「親学」イデオロギー

では「こども庁」が「こども家庭庁」となることが、なぜここまで話題になるのだろうか? 言うなれば、"たかが" 名称の問題にもかかわらず、なぜ懸念が集まっているのだろうか?

背景には、親学(おやがく)と呼ばれるイデオロギーの問題などが横たわっている。最初に親学について概観した後、こども家庭庁という名称との関係について見ていこう。

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✍🏻 著者
編集長 / 早稲田大学招聘講師
1989年東京都生まれ。2015年、起業した会社を東証一部上場企業に売却後、2020年に本誌立ち上げ。早稲田大学政治学研究科 修士課程修了(政治学)。日テレ系『DayDay.』火曜日コメンテーターの他、『スッキリ』(月曜日)、Abema TV『ABEMAヒルズ』、現代ビジネス、TBS系『サンデー・ジャポン』などでもニュース解説。関心領域は、メディアや政治思想、近代東アジアなど。
リサーチャー
The HEADLINEリサーチャー。立教大学文学部文学科文芸思想専修所属。関心領域は文学、西洋哲学、人権・LGBTQ問題など。
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