中央アジアの共和制国家・カザフスタンで、2022年の年明けから反政府デモが拡大した。
政府に対する様々な不満に飛び火する形で拡大した抗議行動は、カザフスタン全土で非常事態宣言が発出される事態にまで発展した。政府治安部隊やロシアの介入もあり、反政府デモは収束に向かったとみられているものの、カザフスタンにおける人権に対しては懸念の声が聞かれる。
なぜ今、カザフスタンにおける人権が憂慮されているのだろうか?
燃料価格高騰から政治不満へ
中央アジアに位置するカザフスタンは、かつてキルギスやウズベキスタンなどと共に旧ソビエト連邦を構成した国である。現在は北と西にロシア、東に中国と接しており、地域の安全保障にとって要所でもある。ユーラシア大陸を横断する東西交易路シルクロードの要所として栄えた歴史も持つ。
1991年にカザフスタン共和国としてソ連から独立して以降、国はふたりの大統領によって統治されてきた。1人目は、独立前年に大統領に就任したヌルスルタン・ナザルバエフ氏。独立後も大統領の地位にとどまり、以後4度の大統領選挙で再選した。
そのナザルバエフ氏が2019年に急遽辞任すると、憲法上の規定に基づいて当時上院議長であったカシムジョマルト・トカエフ氏に大統領権限が移行。同年の臨時大統領選挙で、トカエフ氏はナザルバエフ氏の路線継承を主張した。同氏の支持を受けたトカエフ氏は、7割以上の得票率で野党候補に圧勝している。
トカエフ政権樹立後も、ナザルバエフ氏は辞任後も与党ヌル・オタン(Nur Otan)党の党首の地位や安全保障会議の議長ポストにとどまり、自身の娘たちも国内で様々な権力ポジションを独占し、カザフスタン国内での影響力を維持してきた。
今回のカザフスタンの混乱は、長期に渡って影響力を持つナザルバエフ氏と、大統領就任3年目のトカエフ氏の政治体制下で起こったものである。では、一体何が原因となったのだろうか?
液化石油ガスの値上げ
カザフスタンにおける反政府デモの発端は、液化石油ガス(LPG)(*1)の急激な値上がりにある。
カザフスタン政府は、自由市場化の推進を目的として、2022年元日から燃料価格の上限を撤廃。同国は天然ガスおよび石油の豊かな生産量を維持してきたにもかかわらず、それらが生産コストを下回る価格で販売されてきたために国外への輸出が促進された。その結果として、国内における供給不足を招いたのだ。
およそ2倍の価格高騰は、即座に国民の反発を引き起こした。液化石油ガスは車両の燃料として広く使用されているものであり、国民の生活への影響は甚大であった。価格高騰に対する大規模な反政府デモは、国内各地に拡大。5日には国内で非常事態宣言が出され、内閣は総辞職をした。その後、トカエフ大統領によって燃料価格の上限設定を半年間復活させる方針が示された。
(*1)欧州では2020年の天然ガス生産量が消費量の半分以下となっており、一部のEU加盟国は天然ガスの共同購入および戦略備蓄の必要性を主張している。長期政権への不満?クーデター?
しかしながら、反政府デモを鎮静化するためには、価格高騰に対する対応のみでは不十分だった。国民の抗議行動は、さらなる政治的不満へと広がったためだ。長期独裁への不満
市民の怒りの矛先は、ナザルバエフ前大統領の長期独裁・権力独占にも向いていった。