欧州連合(EU)の行政執行機関にあたる欧州委員会は今月2日、原子力発電を「持続可能な投資先」のリストに加える提案を正式発表した。
このリストは、経済活動が持続可能であるかを分類する制度である「EUタクソノミー」に合致する企業活動を示すもので、脱炭素化に向けた民間投資を促す政策の一環となっている。言い換えれば、このリストに加えられた経済活動は、EUにおける脱炭素の取り組みに資すると認定され、投資を受けやすくなる。
欧州では、再エネの発電力不足や化石燃料価格の高騰から原発を見直す動きがあり、「グリーン」認定するかどうかで議論が続いていた。しかし、放射性廃棄物を出す原発を持続可能な電源として認めることには疑念の声もあり、一部の加盟国や環境保護団体などからは、いわゆるグリーンウォッシング(見せかけだけの環境対応)にあたるとして反発が出ている。
2011年の東京電力福島第一原発事故以降、欧州でも原発縮小の動きは見られていた。現在、EUが原発推進転換を図ろうとしている背景には何があるのだろうか?
「EUタクソノミー」と原発
まずは、今回の議論の発端となっている「EUタクソノミー」という制度と原子力発電の関係について見ていこう。
「EUタクソノミー」とは
EUタクソノミーとは、発電や金融、製造といったさまざまな経済活動のうち、環境的に持続可能な経済活動をEUが評価して分類する枠組みだ。
企業が環境に配慮していることを誇張する「グリーンウォッシング」が社会的な問題となる中で、何が本当に持続可能な経済活動かといった基準をEUが明確化することで投資判断をしやすくし、持続可能な経済に資する事業に市場から資金を呼び込む狙いがある。
EUは2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロとする目標を表明しており、この環境目標に照らして持続可能かどうかについて、今後は域内の経済活動がEUタクソノミーによって評価される。この制度は、2023年から運用が開始される予定だ。
原発の分類が議論に
ただし、細則で定められる具体的な経済活動のうち、原子力発電を「持続可能な投資先」のリストに加えるかについては加盟国間で賛否が分かれた。原子力発電は、二酸化炭素(CO2)の排出がほとんどないが、核廃棄物を排出するからだ。
EUタクソノミーでは、
- 気候変動の緩和(主に脱炭素化)
- 気候変動への適応(物理的リスクの管理)
- 水・海洋資源の保護
- 循環型経済への移行
- 汚染の防止と抑制
- 生物多様性と生態系の保護と回復
という6つの環境目標が掲げられており、この6つの環境目的のうち1つ以上に貢献し、他のいずれにも重大な損害を与えない活動を「持続可能」と見なすとしている。処分が難しい核廃棄物は、この「他のいずれにも重大な損害を与えない」活動という規定に抵触するおそれがある。
また、詳細は後述するが、EUの加盟国間でも原子力政策は異なるため、国益の観点からも対立が生まれた。原子力発電への依存率が高いフランスや、今後の原発の活用を見込んでいたポーランドやチェコなどはリストへの追加に賛同し、計10ヶ国が原発のリスト化を共同声明で訴えた。一方、積極的に脱原発を推進してきたドイツや、デンマーク、オーストリアなどは原発のリスト化に反発していた。
グリーン認定へ
上記の議論は2019年3月から続いていたが、今月2日、欧州委員会により、原子力発電を「持続可能な投資先」のリストに加える提案が正式に発表された。提案は今後、各加盟国と欧州議会で議論され、承認されれば成立する。提案が却下されるためには、加盟国間では27ヶ国中20ヶ国以上、欧州議会では過半数の反対が必要となるが、その見込みは低く、認定が既定路線とされている。
提案によれば、2045年までに建設許可を得た原発は、放射性廃棄物の安全な処理のための詳細な計画・資金・処分場の確保などを条件に、環境保護に貢献する「持続可能」なエネルギーとして分類される。また、放射性廃棄物を海外に輸送することも認められない。
欧州委員会は声明の中で、「科学的な助言や現在の技術の進歩、加盟国ごとに異なる移行の課題を考慮し、再生可能エネルギーを主とする未来への移行を促進する手段として、天然ガスと原子力の役割があると考える」と述べており、過渡的な認定である旨を強調している。
欧州で原発が見直されている理由は?
欧州における原発回帰の理由は、次の4つの点から説明される。