2月末から続くロシアのウクライナ侵攻をめぐって、欧米諸国をはじめ、多くの国がロシアへ経済制裁を課している。ロシア中央銀行の資産凍結や国際銀行間通信協会(SWIFT)の国際決済ネットワークからの排除といった経済制裁は、ロシア通貨のルーブル急落など、随所でその影響が見られている。
一方のロシアでは、その影響を回避するために、いくつかの対策を講じている。例えば、保有する外貨の米国ドルから中国・人民元への切り替えや、暗号通貨の利用などだ。
このように経済制裁をめぐる動きが活発化しているが、その背景には、国際社会の貿易や金融において、米国ドルが共通の通貨として使用されている国際的な通貨体制(ドル基軸)がある。では、ドルが中心的に使用される体制とはどのような仕組みなのだろうか?また、経済制裁によってどのような影響が生じうるのだろうか?
基軸通貨とは何か?
国際的な貿易や金融において中心的な使われる通貨を基軸通貨と呼ぶ。ただし、世界銀行や世界通貨基金といった国際機構が正式に定めているわけではなく、暗黙の了解としてその地位が認められているのが現状(*1)だ。
この基軸通貨の役割は大まかに以下の5つに分けられる。
- 世界の為替市場における取引通貨
- 貿易で使われる決済通貨
- 国際金融取引
- 各国の外貨準備(*2)
- 紙幣の国外使用
などだ。
こうした役割を果たしている通貨が米国ドルだ。例えば、世界の為替市場における通貨別取引高シェアのうち、米国ドルは44%(2019年4月)を記録し、それに次ぐユーロ(16%)と比べ2倍以上のシェアを誇っている。また各国の外貨準備高総額を通貨別にみると、2021年第4四半期には、全体(約12兆9372億ドル)のうち、米国ドルは約54.7%(約7兆ドル)を占め、それに次ぐユーロ(約19%)とは約3倍の差がある。
また基軸通貨は、その価値が安定していることかから、戦争や武力紛争などの有事の際にも買われることが多い。いわゆる「有事のドル買い」だ。例えば、リーマンショック(2008年)や新型コロナによる株価下落(2020年)などには、米国ドルを求める動きが加速し、ドルの総合的な強さの指標である実効為替レートが上昇している。
では、基軸通貨にはどのような特徴があるのだろうか?
(*1)例外として1944年から1971年のブレトン=ウッズ体制では、米国ドルが各国の承認を得て、正式な基軸通貨として定められた。
(*2) 各国の通貨当局は、自国の通貨価値の下落や他国の為替市場への介入に備えて、すぐに利用できる外貨をある程度確保する必要がある。