⏩ TikTok の ByteDance による統合型オフィスツール、ARR 1億ドル突破
⏩ 企業向け製品市場への参入で収益の安定・多角化を狙う
⏩ パブリッククラウド市場は急成長中だが、中国市場には課題も
コロナ禍を機にリモートワークが促進され、ウェブ会議やビジネスチャットの利用が増加した。その中で、中国発のオフィスツール「飛書(英語表記:Feishu)」が注目の的になっている。
飛書とはどのようなサービスで、なぜ視線が集まっているのだろうか?
また同サービスを運営する ByteDance(字節跳動)は、初の企業向け製品である飛書を皮切りに、パブリッククラウド市場に乗り出した。同社はどのような戦略のもと、製品・サービスを展開しようとしているのだろうか?
「飛書」とは?
飛書は、ショート動画投稿アプリ TikTok を傘下に持つ ByteDance が提供するオフィスツールで、海外版は「Lark」(*1)という名称で提供されている。2017年に社内ツールとして開発され、2019年に海外市場向け、中国市場向けにそれぞれ正式リリースされた。
飛書の主な機能には、チャット、ビデオ通話・会議、カレンダー、ドキュメント、メール、勤怠管理、各種申請などがある。4種のプランがあり、個人・少人数向けのスタンダードプランは無料となっている。メールやクラウドのストレージ等に制限はあるものの、基本的な機能は利用可能だ。
(*1)Larkは、シンガポールに拠点を置くByteDanceの子会社Lark Technologiesが開発した。飛書とは別々にデータ保存を行っている。
特徴は?
飛書は、基本的に他社アプリとの連携が不要なオールインワン型である点を武器にしている。社内コミュニケーションツールとしてシェアの大きい Microsoft Teams や Slack の場合、ドキュメントの作成や編集は Google Drive、勤怠管理はジョブカンというように、外部アプリを利用しなければならない場面がある。一方、飛書は企業が必要とするツールを全て自社で構築している。
チャットやカレンダー、ドキュメント作成、ビデオ会議などが統合されており、その点では Google Workspace を想起させる。さらに、2021年には、人事管理、契約管理、決済管理を行うアプリが実装され、2022年には求人機能が追加された。飛書を利用すると、オフィス内での日常的なコミュニケーションにとどまらず、採用から組織管理までシームレスに行えるということだ。
また、同社は AI に強く(*2)、TikTok も AI によるレコメンド機能を備えていることはよく知られている。飛書でもその知見が発揮され、Teams 会議や Zoom に先駆けて導入されたリアルタイム翻訳や、自動の文字起こし機能による議事録や字幕の生成機能などを搭載している。
(*2)ByteDanceは新規事業としてXR分野進出の準備も進めており、2020年にはVRヘッドセットメーカーPico Technology、昨年バーチャルSNS開発企業PoliQを買収した。
注目される理由は?
飛書が注目される理由として、以下の5つのポイントを指摘できる。まず、比較的短期間で(1)収益1億ドル突破したことだ。これは(2)ByteDance の成長鈍化が懸念されている中での出来事だった。
また、改めて同社の勢いを感じさせる製品が生まれた背景を理解するためには、(3)イノベーション戦略を抑えておく必要がある。結果として(4)ByteDance 初の企業向け製品が登場し、同社が(5)中国のパブリッククラウド市場に参入する契機となったことで、 その戦略に熱い視線が注がれていると言える。