⏩ DAC、スイスのスタートアップ Climeworks などが商用化
⏩ Microsoft や JP Morgan Chase もカーボンクレジットを購入
⏩ フィルターの性能向上などによるコストダウンが大きな課題
スイスを拠点に DAC の開発を進めるスタートアップ、Climeworks への注目が高まっている。
DAC は Direct Air Capture(ダイレクト・エアー・キャプチャー)の略で、空気から CO2 を回収し、地中深くに埋める技術だ。同社が地中に埋めた分のCO2はカーボンクレジットとして販売され、すでに多くの企業がその購入に動いている。
カーボンクレジットとは、特定のプロジェクトによる CO2 削減量が「排出権」として販売されるものだ。このクレジットを購入した企業は自社からの CO2 排出量をクレジット分だけ相殺できる。
2023年5月、米金融大手 JP Morgan Chase は2万5,000トン分のカーボンクレジットを、総額2,000万ドル(約26億円)で Climeworks から購入することを発表。昨年1月には、Microsoft、Stripe、Shopify の3社に対して、Climeworks からカーボンクレジットが納入された。
なかでも Microsoft は、Climeworks との間で10年にわたる長期のカーボンクレジット購入契約を結んでいる。
業種を問わず、カーボンニュートラルなどへのコミットメントが重要になるなか、カーボンクレジットの発行元として Climeworks は注目の的となりつつある。
では、そもそも Climeworks が取り組む DAC とはどのような技術なのか。そして、なぜいま DAC に注目が集まっているのだろうか。
DAC とは何か
DAC(Direct Air Capture)について定まった日本語訳はないが、あえて直訳すれば「空気からの直接的 CO2 回収」となる(*1)。
DAC では空気から回収した CO2 を地中深くに埋め、空気から隔離する。その結果、大気中の CO2 が削減されるため、回収した CO2 の量に応じてカーボンクレジットを発行することができる。なお、カーボンクレジット制度の詳細については下記記事に詳しい。
(*1)DACはCO2を回収したのちに地下へ貯留するため、DAC+S(Direct Air Capture+Storage:空気からの直接的CO2回収・貯留)と呼ばれることもあるが、本記事の表記はDACに統一する。
CCS とは何が違うのか
CO2 を回収し地下へ貯留する技術としては、CCS(Carbon Capture and Storage)と呼ばれるものもある。しかし、DAC と CCS は「CO2をどこから回収するのか」という点が明確に異なる。
一般的に、CCS は発電所などから排出される CO2 を回収して地中に埋めることで、大気へ放出されることを防ぐ。一方、DAC はすでに大気にある CO2 を回収する。つまり CCS と比べて、空気中の CO2 を直接的に減らせるという特徴を持つ(*2)。
(*2)DACを含めた、大気からCO2を回収する技術はCDR(Carbon Dioxide Removal)と総称されることもある。
DACの現在
2022年時点で DAC を実施するプラントは世界に18拠点ある。なお、その所在地は欧州、米国、カナダに限られている。
CCS を含めた CO2 除去分野への投資額は64億ドル(約8,320億円)にのぼり、後述のように Climeworks が運営する拠点では、すでに DAC の商用稼働が始まっている。また来年末には米・テキサス州で、年間100万トンの CO2を回収・貯留する世界最大規模の DAC プラントの稼働開始も予定されている(*3)。
(*3)この事業は Occidental が主導しており、Climeworks は関与していない。
Climeworks とは何か
DACの技術が注目を集めるなか、世界でもいち早くDACの商用化に成功したのがClimeworksだ。