⏩ 宇宙で医薬品などを遠隔製造するための施設が打ち上げ
⏩ 重力がないことから、新たなアプローチによる医薬品や半導体開発に期待
⏩ 100億ドルの規模と期待される一方、経済合理性に疑問も
近年の宇宙では、医薬品などの製造が活発におこなわれている。たとえば、2019年から、NASA の宇宙飛行士は、人間の臓器を3Dプリンターで “印刷” する技術の開発に取り組んでいる。同年、製薬大手の Merck & Co.(メルク)は、ISS における抗がん剤の開発について論文を発表した。
こうした状況の中、2023年6月12日、「世界最初の宇宙工場」と言われる衛星が米国のスタートアップによって打ち上げられ、宇宙での製造に向けた機運がさらに高まった。
これについて、カーネギーメロン大学のアーサー・ボニ(Arthur Boni)名誉教授は「可能性は非常に大きく、私はそれを空に浮かぶ有望なエメラルドのようなものだと考えています」と述べる。
「次なる産業革命は宇宙で起きるだろう」とも言われるが、なぜ宇宙での製造が注目されているのだろうか。
宇宙における医薬品・半導体製造
宇宙空間における医薬品、半導体の研究や製造に投資がなされ、官民合わせて具体的な取り組みが加速している。
2023年3月、NASA が ISS でがん関連の研究を進めるため、米国のジョー・バイデン大統領は、2024会計年度予算において500万ドル(約9億円)を確保したと発表している。これは、同大統領が掲げるがん撲滅へ向けた取り組み「がんムーンショット」(Cancer Moonshot)の一環だ。
2023年6月には、宇宙製造スタートアップの Varda Space Industries(後述)が、医薬品を運ぶために設計されたカプセルを地球の周回軌道上へ送ることに成功した。これは、宇宙で医薬品を遠隔製造できるかをテストする目的で、「世界最初の宇宙工場」が建設されたとも言われる。
このように宇宙での製造に関する取り組みが注目を集めているが、それは、昨日今日始まったわけではない。