今日3日、中国の配車アプリ滴滴出行(Didi、Didi Chuxing Technology)はニューヨーク証券取引所(NYSE)の上場廃止に向けた手続きを開始した。同社は、今年6月末にNYSEへ上場していたが、半年に満たないうちでの上場廃止となった。今後は、香港への上場に向けて準備を進めることを発表している。
Didiは上場間もない今年7月、中国政府から国家安全保障の保護を目的として調査を受けており、その後すぐに同社サービスはアプリストアから削除された。ユーザーの新規登録も停止されており、既にDidiは強い規制を受けている状況であった。
重要な理由
今回の上場廃止は、中国政府からのDidiに対する強い締め付けが理由とされている。Didiは上場時、中国政府からデータセキュリティの確保および上場延期を求められていたが、同社はNYSEへの上場を強行した。
そのため同社は当局から怒りを買っていたとされ、今回の前例のない措置に繋がったとみられる。この上場廃止措置については、先月26日にBloombergが報道していた。
しかしこの動きは、Didiのみに留まらず中国のテック企業に対する当局からの強い圧力を象徴している。同国では今年11月から個人情報保護法(PIPL)が施行されており、同法案に基づいてTencentやByteDanceなどの巨大テック企業への規制が示唆されている。
本誌記事「なぜ中国当局は、手のひらを返して自国のテック企業の取り締り強化に乗り出したのか?」でも見たように、これまで優遇されてきた中国テック企業への圧力は、Alibaba Group(阿里巴巴集団)傘下の金融会社であるAnt Group(アント・グループ)の上場中止からはじまる、最近の中国当局による大きな方針転換だ。
背景
この背景には、外国へのデータ流出などを危惧する中国政府の意向と共同富裕に象徴される共産党の新たな動向がある。
トランプ大統領時代の米国は、中国との貿易および政治的対立を背景として、ByteDanceやHuawei(ファーウェイ)などの中国企業に対して制裁を課してきた。そこには中国脅威論のような政治的思惑もあったが、米国民の個人情報が共産党に渡るリスクを想定した、安全保障上の懸念もあった。
これに対して中国側も対抗措置を取ってきていたが、2021年以降は、米国からの措置が緩和されたにもかかわらず、今度は中国側が外国へのデータ流出を危惧するようになった。背景には、(1)安全保障上の懸念以外にも(2)国民のデータを政府よりも保持するテック企業への警戒感や(2)民間企業に蓄積されたデータも国の資産とみなす共産党の姿勢があると言われる。
また共同富裕のような格差是正政策も、規制をもたらす背景にある。テック企業への規制やその創業者に対する厳しい姿勢は、一種の見せしめとして理解されており、格差拡大を不満視する国民に対する共産党からのアピールとなっている。
前例のない厳しい措置が続いた場合、成長路線を謳歌してきた中国テック企業にとって大きなリスク要因となるが、それが特定の企業だけでなく中国経済全体への重石になる可能性もある。