「インスタ疲れ」など世界的にSNSの弊害が顕在化する中、Z世代から支持を集める新興SNSが相次いで資金調達やサービス拡大をしている。
「アンチ・インスタグラム」を掲げる写真投稿アプリ Poparazzi(ポパラッチ)は昨年、シリーズAの投資ラウンドで1,500万ドルを Benchmark Capital らから調達した。同アプリは今年6月、500万回以上のダウンロードを達成している。また Bereal の急成長を受けて、TikTok は同アプリを模倣した TikTok Now を先月にリリースしている。
新興SNSの相次ぐ資金調達やサービス拡大は、単に Instagram や Twitter のライバルが登場したことを意味するだけでなく、Facebook や Google などビッグテックの地位が、決して安泰ではないことを示唆している。Instagram をはじめとした巨大SNSは、いまや世界中の人々の生活に欠かせないものとなっているが、同時にSNS疲れや孤独感、フィルターに依存する身体醜形障害、情報過多などによるメンタルヘルスの問題を顕在化させている。
新興SNSには一体どのようなサービスがあり、なぜ注目を集めているのだろうか?またSNSの勢力図が塗り替わる可能性はあるのだろうか?
SNSへの批判
InstagramやTwitterのような巨大SNSに対しては、それらがユーザーにもたらす様々なリスクが指摘されている。
2021年、Instagram が10代少女のメンタルヘルスに悪影響を及ぼすという内部文書が報じられ、世の中に衝撃を与えた。SNSが "虚像" の日常や自己を表現する空間になっており、ユーザーはその熾烈な競争に疲れ果て、メンタルヘルスや自己認識に脆弱性をもたらしていることは、よく知られている。
ユーザーの精神に及ぼすリスク
上記の内部文書を報じた Wall Street Journal によれば、いずれも10代少女について
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自身の体形に不満を感じている時に Instagram を見ると、32%が自己嫌悪感を高めている
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Instagram を閲覧することで、自身への見方や評価が変わる可能性がある
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他者の魅力、富や成功と比較した自分の価値(社会的比較)について、Instagram はより悪い影響をもたらしている
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最良の瞬間だけをシェアする傾向、完璧に見えるようにするプレッシャー、病みつきになる中毒性は、摂食障害や自分の体形に対するネガティブな感覚、うつ状態という負のスパイラルに追い込む可能性がある
ことが指摘されている。こうした研究は数多く報道されており、たとえば2018年の The New York Times 紙では、シリコンバレーのテック企業の労働者たち自身が、その子どものガジェットやアプリの利用を制限している実情が報じられた。
Facebook(現Meta Platforms)は内部文書について、 Instagram がメンタルヘルスを改善させたという事例もあり、Instagram の利用が10代のメンタルヘルスを悪化させる原因だという決定的な証拠はないと反論している。しかし、少なくとも "インスタ疲れ" を超えた、SNSの利用による広範な悪影響を多くの人々が懸念していることは事実だ。
著名人のSNS離れ
こうしたSNSの負の側面を理由として、著名人がSNSの休止を発表する事例も報じられてきた。
今年8月には、映画「スパイダーマン」シリーズ主演俳優のトム・ホランド氏が、自身の心の健康のためにSNSを離れることを発表した。本人がInstagramに投稿した動画では、InstagramやTwitterは刺激が強すぎ、悪循環に陥って精神状態を悪化させてしまうと発言した。同時に彼は、自身が支援している10代のメンタルヘルスのための慈善団体 Stem4 を紹介している。
また、今年9月には俳優ティモシー・シャラメ氏が近日公開予定の映画『Bones and All』の記者会見でSNSに囲まれた時代に生きることに関して、「SNSで仲間を見つけることはできるが、そうした時代に生きることは大変なこと」「社会的な崩壊が起きているように思う」といった旨のコメントをした。他にも、俳優エマ・ワトソン氏や歌手アリアナ・グランデ氏といった著名人も、SNSから距離を置く様子が報じられてきた。
台頭するZ世代のSNS
こうした背景の中、Z世代を中心的なユーザーとする新たなSNSが登場しはじめている。
Poparazzi
Poparazzi は、Instagramと異なり友人がタグ付けした写真のみを投稿できるアプリだ。加工されたり作り込まれた写真ではなく、第三者が撮影した自然な写真が投稿できるカジュアルさが魅力で、既存のSNSに疲れたユーザーから人気を集めた。
Poparazzi(App Storeより)
同アプリを提供するTTYLは、アレックス・マー氏とアースティン・マー氏の兄弟によって創業され、2018年当初は音声SNSを開発していたスタートアップだった。
アレックス・マー氏は、Poparazzi が解決しようとしている問題を以下のように説明する。
過去10年間、私たちのフィードは、編集された完璧なコンテンツでますます満たされるようになった。自分自身について投稿する時、私たちは当然、人生で最もエキサイティングな瞬間だけを共有しようとする。写真を過剰に編集し、気の利いたキャプションを書き、最高の自分を表現しようとする。その結果、誰も勝てない注目を集めるための競争になってしまいます。スクロールすればするほど、自分には何も無いように感じてしまう。
Dispo
Dispoは、使い捨てカメラのように写真を楽しめるアプリだ。『本当に好きな人たちと、ありのままに生きることができる世の中をつくる。』というミッションを掲げている。
Dispo(App Storeより)
ユーザーはスマホ上に表示されるデジタルファインダーを覗きながら写真を撮り、翌朝9時に現像される写真を共有することができる。それらはTwitterのタイムラインのようなオープンな空間ではなく、ロールと呼ばれる友人たちとの共同アルバムにシェアされる。
親しい友人たちとの間のみでのやりとりをすることが想定されているが、昨年時点でダウンロード件数が全世界500万件以上、アプリで撮影された写真が1億枚を突破している。
BeReal
写真投稿アプリの BeReal は、ランダムな時間に通知が送られ、そこから2分以内に写真を投稿するという一風変わったアプリだ。Instagramに欠けている信頼性(リアル)と広告無しの体験を提供することで「アンチInstagram」として分類されている。
Be Real(App Storeより)
ここで言う信頼性(リアル)とは、フィルターによる "完璧な外見" や最良の瞬間だけをシェアする Instagram の虚構に対して、より現実やリアルを反映した写真のみを投稿する必要があることを意味する。ちなみに、トイレや風呂など "やむを得ない理由" で2分以内に写真を投稿できない場合のみ、後から投稿することが可能だ。
BeReal は、2022年初頭からダウンロード数が315%伸びており、Instagram や Snapchat、Pinterest に次ぐ人気となっている。