A destroyed part of Raqqa(Mahmoud Bali (VOA), Public domain) , Illustration by The HEADLINE

イスラエルは、なぜ大地震直後にもかかわらずシリアを攻撃したのか = いまも続く人道危機

公開日 2023年03月06日 16:25,

更新日 2023年09月09日 14:58,

有料記事 / 国際

この記事のまとめ
イスラエル、2月の大地震直後にシリアを攻撃

⏩ イランとシリアが開いたドローン開発の会合を狙った
⏩ シリア国内におけるイランやヒズボラの影響力拡大を防ぐための軍事作戦の一環
⏩ ウクライナ侵攻を経て不安定化する中東情勢を背景に、シリアへの攻撃が激化する恐れ

2月19日の深夜、午前0時30分頃(現地時間)、シリアの首都ダマスカス周辺でイスラエルによるものとみられるミサイル攻撃があった。トルコ南部を震源とした地震が2月6日に発生して以来、イスラエルによる攻撃が報じられるのは初めてだ。

トルコとシリアを襲った大地震の後、イスラエルのネタニヤフ政権は、ブランケットやテント、薬などの支援物資をシリアへ送ることを明らかにしていた。にもかかわらず、なぜイスラエルは一転してシリアへの攻撃を行っているのだろうか?

2013年から続く攻撃

イスラエルは、2011年のシリア内戦勃発後、2013年頃からイランやレバノンのイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラのシリアでの影響力を抑えるための軍事作戦を行ってきた。今回の攻撃もその一環として捉える必要がある。また、イランによるドローンなどの武器開発によって高まる安全保障上の脅威に対処する目的もある。

今後、ロシアによるウクライナ侵攻を経て不安定化する中東情勢を背景として、イスラエルとイランの対立が激化し、シリア国内への攻撃もエスカレートする恐れがある。

本記事ではまず、今回のミサイル攻撃がどのようなものだったのか紹介する。その上で今回の攻撃に至るまでの経緯や目的を解説し、今後のイスラエルとイランの対立の行方を展望する。

どのような攻撃だった?

シリア国内における攻撃について、正確な情報を把握することは難しい。シリア国営通信と、イギリスに拠点を置くシリア人権監視団からの情報を順番に見ていこう。後者が、より正確な情報を提供しているとされる

シリア国営通信シリア国防省の声明を引用し、イスラエルが占領するゴラン高原の方向からダマスカスや近郊の住宅地を狙った多数のミサイルによる攻撃があったとした。迎撃によりほとんどを撃墜したものの、住宅が多く破壊され、兵士1人を含む5人が死亡、市民15人が負傷した。旧市街にあるダマスカス城塞の事務所、城塞内にある応用芸術技術研究所や遺跡博物館中等研究所、またカフル・スーサ区の「文化センター」も被害を受けたとしている

一方、シリア人権監視団は死者の数を15人としている。攻撃はダマスカス郊外県や、カフル・スーサ区にあるイラン民兵やレバノンのイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラの拠点、またイランが運営する教育施設を標的としていたという。死者のうち、7人の兵士と2人の市民を合わせた9人はシリア人で、他1人はヒズボラの構成員だった

2月6日に発生した大地震で大きな被害が出ているのはシリア北西部で、ダマスカスには目立った被害は無かったが、シリア外相は地震から2週間経たないうちの攻撃は「人道に対する罪」として非難している。またイランも、イスラエルによる攻撃はシリア人の地震による苦しみを悪化させるだけだとして非難した。

イスラエルはこれまで、攻撃について公式にコメントしていない

攻撃を受けたカフル・スーサ区とは?ーイランの拠点

今回被害を受けたカフル・スーサ区は市民も住んでおり、AP通信BBCによれば、イスラエルはダマスカス周辺の軍事拠点は頻繁に攻撃してきたが、居住地に対して攻撃を行うのは珍しい(*1)

しかしカフル・スーサ区は厳重に警備が行われ、シリアの政府幹部の住居や治安機関、またイランの軍事機関や「文化センター」があるとされる。これらのイランの軍事拠点を攻撃するのがイスラエルの狙いと見られる。

海外メディアはカフル・スーサ区の被害の様子を伝えている。ロイター通信AFP通信France24は、カフル・スーサ区でミサイルの攻撃を受け破壊された建物の写真や映像を配信した。France24はSOHRの話として、この10階建ての建物はシリアの政府幹部が住み、シリア情報機関の本部も入っているとしている。


攻撃が発生した当初、ロイター通信などは西側情報当局の話として、イラン革命防衛隊が運営する物流施設が入る建物が標的になったと伝えていた。

ロイター通信のその後の調査によると、この建物では攻撃当時、シリアとイランの技術専門家同士の会合が開かれ、ドローン開発やミサイル能力向上の計画について話し合われていた。会合はこの建物の地下にあるイラン軍の施設で行われていたとされる。攻撃によりシリア側のミサイル開発に従事する技術者やイランの政府職員が殺害されたという情報や、革命防衛隊の複数の隊員が現場におり、そのうちの技術者1人が重傷を負ったという情報がある。

(*1)ただし、2008年にはヒズボラの司令官が同地区のほぼ同じ場所で車に仕掛けられた爆弾によって殺害されている。イスラエルの情報機関モサドがアメリカCIAと共同で実行したとされる。

なぜ今シリアを攻撃しているのか?

シリアにおける内戦の勃発当初から、イスラエルはシリア国内への攻撃を続けてきた。そもそもイスラエルはなぜシリアを攻撃しているのだろうか?

その中で、今回の攻撃はどのような目的があるのだろうか?

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✍🏻 著者
エディンバラ大学修士課程
エディンバラ大学(スコットランド)アフリカと国際開発修士課程所属。専門はフランス語圏アフリカのガバナンス。その他多文化共生、災害時の多言語情報発信などが関心領域。
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