⏩ イスラエル批判で、顔と名前をアドトラックにさらされる学生も
⏩ イスラエルを子どもの殺害で非難すると反ユダヤ主義になる理由とは
⏩ キリスト教福音派の政治的影響力も背景に
12月1日(現地時間)、イスラエル軍はパレスチナ自治区ガザでイスラム組織のハマスと戦闘を再開したと発表した。イスラエル軍は、ハマスが休戦協定に違反してイスラエル領内にロケット弾を打ち込んだと非難している。
一連の戦闘において、イスラエル最大の後ろ盾となっているのがアメリカだ。アメリカはハマスをテロリストとして認定しており、イスラエルによるパレスチナへの攻撃について、イスラエルの「自衛権」にもとづいて支持している。今回の戦闘開始直後、バイデン大統領はハマスについて「純粋な悪」や「残忍」などの容赦のない言葉で非難した。
かつて、大統領になる前のジョン・F・ケネディが「イスラエルとの友好は党派的な問題ではありません。それは国家的な約束なのです」と述べたように、アメリカとイスラエルの間には、歴史的に深いつながりが形成されてきた。
その証左として、11月中旬にワシントンで行われた「イスラエルのための行進」というイベントでは、党派を超えた連携が見られた。下院民主党トップのハキーム・ジェフリーズ議員と上院民主党トップのチャック・シューマー議員、共和党のマイク・ジョンソン下院議長は、壇上に並び「我々はイスラエルを支持する」と述べて、手を握り合ったのだ。
一方で、イスラエルへの批判を展開する動きや、パレスチナへの連帯を表明する動きには、厳しい視線が向けられる。ハーバード大学では、イスラエルのみを非難する声明に署名したとして、一部の学生が「反ユダヤ主義者」として顔と名前をさらされた。
なぜ、アメリカではイスラエル批判やパレスチナ擁護が問題視され、激しい反発を引き起こすのだろうか。
アメリカでイスラエルを批判すると何が起こるのか
アメリカでは、10月7日に開始した戦闘以降、大学や企業、政界などにおいて、イスラエルへの非難やパレスチナへの連帯に対して容赦ない反応が巻き起こった。
たとえば、10月中旬から下旬にかけて、イスラエルのみを非難する声明に署名したとして、ハーバード大学生の名前と顔写真がさらされた。保守系の非営利団体は、同大学周辺で「ハーバード大学の主要な反ユダヤ主義者」と書かれたアドトラックを走らせた。著名投資家のビル・アックマン氏は、署名した学生たちの名前を公表して彼らを「不用意に雇用」しないようにするべく、 “ブラックリスト” を作成するよう求めている。
他にも、Starbucks は10月17日、パレスチナとの連帯を表明したとして、傘下の労働組合 Starbucks Workers United を提訴している。Starbucks は、CEO を3度(1度は暫定CEO)務めたハワード・シュルツ氏をめぐって、長らくイスラエルとの関係についての噂に直面してきた。2009年、CBS News は「Starbucks が外国の軍隊や政府に寄付をしているという考えは根拠がなく、かなりばかげている」と報じている。
ハワード・シュルツ氏(Gage Skidmore, CC BY-SA 2.0 DEED)
シュルツ氏は確かにイスラエル支持者で、イスラエルの賞(*1)も受賞していること、同国のサイバーセキュリティ企業 Wiz に投資をしていることは事実であり、こうした点が同氏に対する「アクティブなシオニスト」という評価を一部で得ている要因とも考えられる。
政界でも物議を醸す出来事があった。11月上旬、下院では、唯一のパレスチナ系議員であるラシダ・タリーブ氏がおこなった発言をめぐり、同氏を問責する決議がおこなわれた。理由は、タリーブ氏が「川から海まで、パレスチナ人は自由になる」というスローガンを掲げたことにある。川と海は、それぞれヨルダン川と地中海を指しているが、親イスラエルの人々からすれば、このスローガンはユダヤ人国家(イスラエル)の存在を否定するものとして認識されるという。
イスラエルとパレスチナ(MapChart, CC BY-SA 4.0 DEED)
こうした激しい反発の背景にある理由を理解するためには、アメリカとイスラエルが歴史的に密接な関係を構築してきたことをおさえておく必要がある。
(*1)これは1998年の「イスラエル建国50周年記念シオンの友トリビュート賞」のことであり、他の受賞者には、バイデン大統領(当時上院議員)、マーガレット・サッチャー元英国首相も含まれていた。
アメリカとイスラエルの密接な関係
アメリカとイスラエルの密接な関係は、歴史的な結びつきから理解することができる。詳細は割愛するが、アメリカとイスラエルの関係は、第二次世界大戦期にまでさかのぼる。
1948年5月14日、“イスラエル建国の父” ダヴィド・ベングリオンが、ユダヤ人国家の樹立を宣言すると、当時アメリカの大統領だったハリー・トルーマンは、世界に先駆けてイスラエルを国家として承認した。トルーマンによるイスラエル承認を報じた The New York Times 紙には、イスラエルの人々が歓喜する様子が描写されている。(太字は引用者による)
アメリカがその地域の政府(引用者註:イスラエル)を承認したという知らせが届くと、この真っ黒になった街(引用者註:テルアビブ)では大歓声と祝杯の声が上がった。人々、特にテルアビブのコーヒーハウスで遅くまで飲んでいた人々に与えた影響は衝撃的だった。彼らは暗闇の街路に駆け込み、叫び、歓声を上げ、アメリカに向けて乾杯した。
イスラエルの国家樹立宣言を祝うために、テルアビブのディゼンコフ・ハウス(現在の独立記念館)に集まった群衆(Unknown author, Public domain)
その後もジョン・F・ケネディ大統領が、1962年に両者が「特別な関係」にあることを強調した。1999年にビル・クリントン大統領がイスラエルと中東諸国の平和構築に乗り出すと、アメリカはイスラエルに対して、毎年数十億ドルの軍事援助の提供を約束してきた。
結果として、米国議会調査局によると、アメリカはイスラエル建国以来、1,580億ドル(約23兆7,000億円)を超える援助を提供してきた。現在、イスラエルにとってアメリカは最大の貿易相手国となり、両者は年間500億ドル(約7兆5,000億円)近い額の貿易を行っている。
では、アメリカにおけるイスラエル批判は、具体的にどのような理由で問題視され、激しい反発を引き起こすのだろうか。
なぜアメリカではイスラエルへの批判が問題視されるのか?
アメリカでイスラエルへの批判が問題視される理由は、大きく3つの視点から理解することができ、具体的には(1)言説的理由(2)宗教的理由(3)政治的理由だ。