3月初旬から4月にかけて急速な円安の流れが加速しており、28日には20年ぶりに1ドル=130円台を突破した。
そもそも円安とは、円と他の通貨(たとえばドル)を交換する際、ある時期に比べて1円で交換できる相対的価値が少ない状態を指す。
たとえば1万円をドルに変える際、
- 1ドル=100円ならば、100ドル(1万円/100円=100)となり、
- 1ドル=125円ならば、80ドル(1万円/125円=80)となる。
つまり1ドル=100円を基準とすると、1ドル=125円になれば交換できるドルは目減りしており「円安」状態にある。円安になると、海外から食料やエネルギーなどを輸入するコストが高まり、モノやサービスを輸入する企業だけでなく、消費者の家計にも影響を及ぼす。
では、そもそもなぜ円安が起こっているのだろうか?そして、我々にはどのような影響があり、今後どこまで続いていくのだろうか?
昨年末から続く円安傾向
2021年夏頃、1ドル=110円で推移していたドル円相場は、2021年後半にかけて1ドル=115円に近づく局面が見られ、2022年3月、約6年ぶりに1ドル=120円を記録した。
以降、急速に円安が続いており、4月12日には1ドル=125円を記録しており、ついに28日には1ドル=130円を突破するに至る。
昨年末から続く円安傾向(Google Finance)
この動きに対して、今月19日には松野博一官房長官が「為替市場の安定が重要であり、急速な変動は望ましくない」と見解を示した他、経団連の十倉会長も「原材料価格が急激に上がる中、円安も加わって、多くの消費者や輸入する企業、特に中小企業が足もとで非常に苦しんでいる」と指摘する。
もっとも日銀の黒田総裁は、従来から円安によって輸出企業の採算が改善することを理由に「基本的に円安は全体としてプラス」という見解を示すなど、円安にもメリットがあるとする論調も少なくない。
ただし、こうした論調もここ数ヶ月の急速な円安傾向によって後退しており、28日の会見では黒田総裁も「先行きの不確実性を高め」るため「マイナスに作用することも考慮する必要がある」と述べている。
円安は良い?悪い?
そもそも円安は悪いのだろうか?
円安を一概に「良い・悪い」で評価することには、慎重な声もある。
たとえば日銀前総裁の白川方明氏は、物価高に至る「悪い円安」懸念がメディアなどで広がっている状況に対して、「円高も円安も『良い』『悪い』で評価するのには違和感を覚える」と述べた上で、「物価目標と同様、為替レートだけに焦点を当てて金融政策を議論すべきではない」と指摘する。
円安のメリット
とはいえ一般的に円安のメリットとしては、
- 価格競争力の高まりによる財・サービスの輸出拡大
- 企業収益の改善
などが挙げられ、日銀による今年1月の「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」でも言及されている。たとえば日本企業が、米国で自動車を5万ドルで販売した場合、
1ドル=100円ならば、日本円で500万円の売上(5万×100円)
になる。ところが円安が進むことで
1ドル=125円ならば、日本円で625万円の売上(5万×125円)
となる。つまり同じ販売価格でも、円建ての売上で見ると大きくなるため、国外に製品を輸出する企業にとっては好材料になるという仕組みだ。
日本は2010年まで過去30年間にわたって、輸出額が輸入額を上回る「貿易黒字」を続けてきたため、モノやサービスを輸出する企業にとって、円安は総じて望ましい状況だった。
ただし近年では、生産拠点を国外に移す日本企業が増えているため、円安のメリットは帳消しになっていると指摘されており、企業収益の改善についても、賃上げや設備投資に波及していないため、総体的にはメリットが薄いという議論もある。
円安のデメリット
一方、円安のデメリットとしては
- 輸入コスト上昇による国内企業収益および消費者購買力の低下
が挙げられる。こちらはメリットの裏返しであるが、1ドル=100円ならば500万円で輸入できた原材料5万ドルが、1ドル=125円になれば625万円になってしまうという問題だ。
サプライチェーンが複雑化し、かつ魅力的な製品の多くが海外製となっている現在、企業にとっても消費者にとっても、円安が重くのしかかっていることは事実だ。たとえば、iPhone の端末価格は過去10年で3倍となっており、賃金がほとんど上昇していない日本の消費者にとっては、平均月収の約6割に迫る高級品となっている。
円安が進んでいる理由
現在、急速に円安が進んでいる理由は、大きく3つの方向から説明される。