欧米各国で移民・難民問題が再燃している。米国とメキシコの国境沿いには、数千人のハイチ人らが押し寄せ、ヨーロッパでもスペインやイタリアの海岸沿いに、北アフリカ諸国から大量の人々が殺到している。
コロナ禍以前から、世界的に難民(*1)の数は断続的に増加しており、2019年には国連が統計を取り始めてから過去最多となっていた。しかしコロナ禍によって各国間の移動が制限されたことで、移民・難民政策にも変化が生まれていた。
欧米各国の難民政策は、コロナ禍前後でどのように変化したのだろうか?
(*1)なお「難民」は、迫害のおそれ、紛争、暴力の蔓延、経済危機、極度の貧困などを理由に、出身国を逃れた人々を指し、ある国による難民認定は必ずしも必要ではない。本記事もこれにならって「難民」という語を用いる。
コロナ禍以前:人道主義からの転換
世界的な感染拡大にいたる2020年3月以前、欧米各国では人道的な観点から難民の受け入れを進めつつも、2015年のシリア難民危機や2017年のトランプ政権誕生を機に、難民を管理・制限する傾向を強めていた。
米国
米国では2017年にトランプ政権が誕生したことで、厳しい移民・難民政策がとられた。ドナルド・トランプ前大統領は、イスラム圏6ヵ国からの入国を禁止するとともに、就労ビザの発行について厳格化した。
また、不法移民や密入国を試みる人々の取り締まりも強化された。2018年には、オバマ政権下で制定された、教育を受けた不法移民の子供に市民権を付与する措置(Deferred Action for Childhood Arrivals, DACA)を撤廃し、違法行為について例外なく逮捕・起訴する「ゼロトレランス政策」を採用した。
移民・難民の制限および管理が強化されたため、2019年から米国の移民・難民受け入れ数は史上最低を記録し、人道的な保護よりも政権の反移民・難民方針が優先された。
欧州
欧州も、2015年頃をピークとして紛争や貧困が悪化したシリアやイラク、アフリカ諸国から、かつてない規模の人々が押し寄せる難民危機を経験した。難民としての保護申立て(庇護申請)は100万件を超え、欧州が受け入れた難民は約70万人を超えた。
難民危機が訪れる以前、欧州では難民の生命や自由を守る人道的保護を定めた難民条約に基づいて、各国の協調を図りながら難民が受け入れられてきた(多国間協調による人道的な受け入れ)。
しかし難民危機によって、この理念は崩壊した。言い換えれば、大量の難民が与える政治的・社会的影響が大きすぎたために、協調ではなく各国それぞれの意向が尊重され、受け入れに積極的な国と抑制的な国で対応が分かれることとなったのだ。
受け入れに積極的な国としては、ドイツがあげられる。ドイツは危機に際して国境を解放することで、最終的に欧州が受け入れたシリア難民のうち70%以上にあたる、約29万7,000人を受け入れた。2017年には難民申請件数に上限を設けたものの、ドイツは人道的な観点から難民を受け入れ続けた。
反対に、難民の受け入れに抑制的な動きも目立った。東欧諸国では、国境沿いにフェンスや壁を設け、物理的に流入を阻止するようになった他、政治的にも反移民を掲げる極右政党が勢力を伸ばした。EUを脱退したイギリスは、2020年1月にポイントに基づく独自の移民システムを展開し、未熟練労働者が多い移民の受け入れを抑制しはじめた。