米・連邦取引委員会(FTC)は今年7月、消費者の「修理する権利」を認める法律を可決した。これにより、米国では消費者が独自に電子機器や自動車を修理することが可能となった。米大統領のジョー・バイデン氏は、「競争のない資本主義は資本主義ではない」と述べ、経済競争や技術革新を促進する「修理する権利」を推進する姿勢を見せている。
しかし「修理する権利」が認められたことに対し、電子機器などのメーカー側は反発の声を上げている。Apple社は、個人的な修理によってデバイスのセキュリティが脅かされるとし、修理する権利を認めた地域は「ハッカーのメッカ」となるだろうと批判している。
一体「修理する権利」とは、どのようなものなのだろうか?そして、なぜ消費者とメーカー側で賛否が分かれているのだろうか?
「修理する権利」とは
「修理する権利」とは、自分の所有物を自分で修理できる権利である。近年、パソコンやスマートフォンなどの電子機器を、持ち主である消費者や第三者の修理業者が容易に修理できないことが問題視されていた。
米国では元々、所有しているデバイスの修理権は認められていた。しかしAppleや任天堂などのメーカー側は、機器に非公式な修理を加えた場合、あらゆる保障を適用しないと定めているケースが少なくない。そのため消費者は、安易に自身の所有する電子機器に手を加えることができず、結果的に消費者の「修理する権利」は侵害されていた。
これに対して、米国の修理協会や消費者団体のUS PIRGはなどが運動を続けることで、徐々に世間からの「修理する権利」への関心は高まっていた。具体的には、修理協会は以下の4点を要求していた。
- 修理のためのマニュアルなど、情報への適切なアクセス権
- 機器の部品やツールの利用権
- ソフトウェアの変更に対するロックの解除
- 消費者が修理できる設計
今回FTCは、メーカー側が拒否していた上記の要望に対して、法的に異議を申し立てることとなった。消費者の「修理する権利」が認められることになり、メーカー側は対応に迫られている。
なぜ「修理する権利」を求めるのか
以上のように、米国では消費者らの運動によって「修理する権利」を獲得できる道筋が立った。ではなぜ、消費者側は「修理する権利」を求めるのだろうか。そこには、大きく分けて2つの理由が存在する。
消費者の経済的負担
「修理する権利」を認めることは、消費者に強いられていた経済的負担の抑制に繋がる。
メーカーは「修理する権利」を消費者や他の修理業者に与えないことによって修理に関する業務を独占し、不当に修理価格を釣り上げてきたと言われる。このことは、修理価格が引き上げられるだけでなく、サービス品質の低下にも繋がると指摘される。
また、あえて複雑に電子機器を作ったり、古い製品のスペアパーツを提供しなかったりなど、製品の「計画的陳腐化」を働いているメーカーが多く、米連邦規制当局は「反競争的行為」であるとして問題視していた。計画的陳腐化とは、製品をあえて長く使えない設計やデザインにすることにより、必要以上に早く新製品への買い替えを促進する戦略だ。個人の修理を妨げる設計は、その手段の1つとみなされている。