⏩ AI開発やSNS運営に必要不可欠な人間の労働は、不可視化
⏩ クラウドソーシングとしての外注により、労働環境が不安定化
⏩ 途上国の労働者を搾取して成り立つ、国際的なデジタル分業
2022年11月にOpenAI社からリリースされたAIチャットボットのChatGPTは、その高精度な文章生成能力から大きな話題を呼んでいる。ユーザー数は公開から1週間足らずで100万人を突破し、その後も急増を続けている。
本誌では、ChatGPTのサービスの仕組み、テック業界や教育・研究への影響について解説してきた。
そのChatGPTの開発にあたって、学習データのフィルタリングに東アフリカ・ケニアの労働者を劣悪な環境で従事させていたと、米・TIME誌が報じた。
同誌によれば、長時間に渡って大量の有害なコンテンツを見てラベルをつける作業が、低賃金でアウトソースされていたという。同様の精神衛生に悪影響を及ぼす労働は、ソーシャルメディアのモデレートでも行われているとされる。なぜ、このような劣悪な労働環境が生じているのだろうか?
問題の背景
背景にあるのは、本来的にAIの開発プロセスにおいては、人間による労働が必要不可欠であるにもかかわらず、「AIによる完全自動化」というイメージの裏で、不可視化されていることだ。また、その人間が行う作業がクラウドソーシングのプラットフォームにアウトソースされていることも労働環境の悪化に繋がりやすい。さらに、IT企業が巨額の利益をあげる一方で、途上国の人々を搾取している国際デジタル分業の不均衡な構造も指摘されている。
一方、劣悪な環境での労働をなくすために、労働者による運動や政府による法規制、IT業界によるガイドライン作りなどが行われている。AI開発における、グローバルなサプライチェーンの不均衡な構造を変える必要もある。
本記事ではまず、ChatGPTのデータ処理で行われていた労働の実態を紹介する。その上で、AI開発やソーシャルメディア運営の裏で劣悪な環境での労働が生じるのはなぜか、それを改善するためにどのような取り組みが必要なのか、順に解説していく。