⏩ 2014年に就任したナデラCEO下での躍進
⏩ 強固な財務基盤を背景とした大規模買収と、反トラスト規制を回避する事業構造
⏩ OpenAI とのロマンスをもたらしたキーマン
⏩ 豊富なユーザーが、次の優位性も
AI をめぐる新たな覇権争いがスタートする中、Microsoft が輝きを見せている。
OpenAI への100億ドル(約1兆3,000億円)にのぼる巨額投資だけでなく、Word や Excel、PowerPoint などのオフィス製品(Microsoft 365)と検索エンジン Bing に AI を次々と搭載し、最近では独自の AI チップの開発も噂されている。
パーソナルコンピューターを普及させ、過去にはオフィス製品やインターネット・ブラウザの世界でも圧倒的な支配を誇った同社だったが、Google や Apple などの「クールな製品」への敗北が続いた。気付けば Windows や Internet Explorer は「クールではない製品」の代名詞となり、Amazon のジェフ・ベゾス氏には、Microsoft のようになれば「私たちは死ぬだろう」とさえ揶揄される始末だった。
しかし2014年に就任したサティア・ナデラCEOの舵取りによって、ビジネス向け製品やクラウド部門が強化され、再び成長軌道に乗ると、市場からの評価も高まっていく。
ただし、それでも消費者向け製品では勝機を掴むことが無かった同社だが、過去1年間の急速な AI の盛り上がりが、変化をもたらす可能性を示唆している。実際、Meta や Amazon、Netflix など FAANG と呼ばれる企業群の株価が冴えない中で、Apple と Microsoft が支配的な地位を占めており、「2強時代」とも報じられている。
なぜ今、Microsoft は勢いを増しているのだろうか?
勝者は未確定
まず大前提として、AI をめぐる競争は始まったばかりだ。
「技術は極めて未熟なうえ、消費者向け事業の収益モデルも未確立。新興企業も入り乱れての勝負はこれからが本番だ」と言われるように、現時点で勝者が固まったわけではない。たしかに Microsoft の攻勢には注目が集まっており、彼らも「検索の新たなパラダイムが始まった」と宣言しているが、その競争は始まったばかりだと自他共に認識している。
競争の入り口とは言え、Microsoft がスタートラインに立っていることは興味深い。インターネット・ブラウザのシェア争い(下図)を見ても分かるように、Micfosoft の消費者向け製品は、2010年代後半から急速に輝きを失っており、復活する可能性は著しく低いと見なされてきたからだ。
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にもかかわらず、その「めったにない機会が生まれている」とされる背景は、大きく4つの理由がある。卓越したリーダーシップが評価されるサティア・ナデラCEOの手腕、同社の投資や買収戦略を支える強固な財務基盤(と、それを可能にする政治的背景)、OpenAI との「ロマンス」を支えたキーマン、そして AI の品質を高める豊富なユーザーおよびデータ数だ。