⏩ ドレイクとザ・ウィークエンドの「コラボ楽曲」が話題に
⏩ レーベルは反発、しかしオリジナル曲なので著作権を侵害しないとの指摘も
⏩ AI楽曲の法的位置づけ、整理して解説
AI などの技術を使い、アーティストの声を再現した楽曲がインターネット上で拡散されている。
実際には存在しない Rihanna(リアーナ)による Beyoncé(ビヨンセ)のカバー楽曲や、アリアナ・グランデが K-POP の楽曲を歌い上げたりする動画がその例だ。BTS や NewJeans など、K-POP アーティストに関連した楽曲も急速に増えている。
中でも、ひときわ注目を集めたのが、人気ラッパーの Drake(ドレイク)と人気シンガーの The Weekend(ザ・ウィークエンド)がコラボした『Heart On My Sleeve』という楽曲だ。これは、既存楽曲のカバーや、ワンフレーズだけの短い曲ではなく、フルサイズの完全な「新曲」。声は Drake と The Weekend にそっくりだが、実際には AI によって生成されたものだとされる。
AI 技術を使ってアーティストの声を再現し、新しい楽曲を制作することが注目を集めるようになると、問題になるのはアーティストの権利保護だ。
両アーティストの所属レーベルである UNIVERSAL MUSIC GROUP(以下、UMG)は不快感を示し、Spotify などの音楽プラットフォームに申し立てをおこなったため、すでに同曲は削除された。しかし、(たしかに声質が似ているとはいえ)こうした「オリジナル楽曲」に対してアーティストはどのような権利を主張できるのかという議論も出てきており、音楽業界には衝撃が走っている。
アーティストの声を AI で再現した楽曲の権利は、どのように扱われるのだろうか?そして、AI が作った楽曲は、アーティストの権利や創造性、音楽業界のあり方に今後どのような影響を与えるのだろうか?
人気アーティストの声を使った AI 楽曲が拡散
まずは Drake と The Weekend の声を無断使用した AI 楽曲騒動について、何が起きたのかを確認しておこう。
騒動の発端となった『Heart On My Sleeve』の音源をアップロードしたのは、「ghostwriter(以下、ゴーストライター)」と名乗る匿名の人物だ。
ゴーストライターは4月17日、同曲を TikTok や YouTube に投稿。動画には白い布をかぶってサングラスをかけたゴーストライターと見られる人物の姿が映っており、キャプションには「i used Ai to make a Drake song feat. The Weeknd(AIを使って Drake が The Weekend をフィーチャリングした曲を作った)」との記載があった。
また、同氏は Spotify、Apple Music などの音楽ストリーミングサービスでも曲を公開。各プラットフォームで合わせて数百万回規模のバイラルヒットを記録した。ゴーストライターはその他にも、2人の声を学習させたソフトを使用したと主張し、「私は何年もゴーストライターとして働き、大手レコードレーベルに収益をもたらしたが、給料はないに等しかった。ついに未来がきた」「これは始まりに過ぎない」などのコメントを TikTok に書き込んだ。
この事態に懸念を示したのが、UMG だ。UMG は各種プラットフォームに申し立てをおこない、楽曲を公開から数日のうちに削除させた。さらに彼らは、アーティストの許諾なしに AI に学習させて楽曲を制作するのは
音楽業界のすべての関係者に、歴史のどちら側にいたいのかという問題を提起している。アーティストやファン、人間の創造的な表現の場にとどまる側か、もしくは、ディープフェイクや偽物を受け入れ、アーティストに正当な対価を払うのを否定する側かだ
との見解を示し、音楽生成AIによるアーティストの権利侵害を強く牽制した。
音楽生成 AI の急速な普及
UMG の動きの背景には、直近数ヶ月における音楽生成 AI の急速な普及がある。